科学の力で霊界の秘密を解き明かそうというのだが、そもそも死後の世界である霊界が存在しなければ、霊界通信機の構想は成り立たない。じつはエジソンは最初から霊界の存在を信じているわけではなかった。
青年時代のエジソンは、神や魂、来世というものをまったく信じていなかったという。発明家、事業家として成功してからも、その考えはほとんど変わらなかった。
1910年10月2日付けの「ニューヨーク・タイムズ」紙のインタビューには当時のエジソンの考えがはっきりあらわれている。
「どんな人間であれ、その頭脳が永遠に不滅であると信じる理由などまったくない。それは、私の蓄音機のシリンダ―(回転胴)の一つが不滅であると考えるのと大差ない。そう、頭脳とは肉でできた機械のひとつ――よくできた機械であるが――にすぎない」
これは、有名な哲学者が死去した際に、記者からコメントを求められて発言したものだったが、宗派を問わず、キリスト教徒からのはげしい非難を受けることになった。カトリック宗派からは、〝物質主義者〟のレッテルを貼られた。また、宗派が発行する雑誌のまるまる一冊を割いて、エジソン批判特集号が出るほどであった。
少なくとも1910年まではエジソンは死後の世界を信じていなかったのだが、1920年に突然、霊界通信機の構想を発表する。その10年間に何があったのだろうか。
ワンマン、唯我独尊といわれた彼の性格からして、キリスト教会からの批判に屈したとは考えられない、やはり、自ら考えを変えるような出来事があったのだろう。
エジソンとコナン・ドイルの共通点
その10年間には、第一次世界大戦があった。多くの人が戦禍で亡くなったことを背景に、死者との交信を試みる降霊会が流行し、心霊学が広まったことは先に述べたとおりである。心霊学の普及の第一人者がコナン・ドイルであった。
エジソンがドイルと交流した記録はないし、ドイルの講演や著書から影響を受けたという証拠もない。エジソンにとってドイルは、子どもじみた降霊術を信じてしまった「理性あるたくさんの人たち」の一人に過ぎなかったのかもしれない。
ただ、霊界通信機の構想には、ドイルと共通する発想がいくつか見られる。
人間の思考や趣味嗜好、性格などのそれぞれの人格は死後も維持されるとドイルは主張していたし、死者たちは死後も地上に残してきた者との交信を望んでいるということもドイルがくり返し語っていたことだ。
また、ドイルは心霊現象を霊界からの電話のベルに喩えていたが、これはそのまま、エジソンの霊界通信機の構想につながる発想だといえるだろう。
違いは、ドイルが20世紀の物質文明を批判する立場から、霊能力など超自然的な力によって霊界と通信ができると信じたのに対し、エジソンは「霊や霊界が存在するならば」とあくまでも仮定としたうえで、霊媒などに頼らずに科学的な手法で霊界通信を試みようとしたことである。


