奄美大島 ノラ猫大論争|瀬戸内みなみ

奄美大島 ノラ猫大論争|瀬戸内みなみ

猫という動物は特別扱いされている、といわれる。同じひとつの命なのに、ミミズよりもオケラよりも、人間にエコヒイキされているというのだ。なぜだろう。 姿かたちがカワイイから。何千年も(一説には1万年も)前から人間のそばにいて、一緒に暮らしてきたから。大切な食糧を食い荒らすネズミを退治してくれる益獣だから。そのすべてが理由になる。


反対している動物愛護団体はどこも、日本での犬・猫の殺処分をゼロにしようという目標を掲げて地道に活動を重ねているところばかりだ。実際に10年前の全国合計殺処分数34万頭余(平成18年度、犬・猫合計)という数字に比べれば、このゴールに向かって大きく前進しているといえるだろう。ただしその裏では近年、いくつかの保護施設が飽和状態になったり、保護動物を抱え込み過ぎて崩壊するなど、過酷な現実も知られるようになってきた。きれいごとでないのは、当事者たちがいちばんよく分かっている。

それでも反対派がこの計画における殺処分に反対するのは、ただ「猫がかわいそうだから」という理由だけではない。これが前例となれば、動物殺処分のハードルが低くなってしまう。そんなことになれば、これまで不可能とされながらもゼロに向かって必死に活動を重ねてきた努力が無になってしまう。

確かに管理計画推進側はこの計画を前例にしようとしている。奄美大島における猫問題の対応を、日本での新しいモデルケースとして発信しようとしているのだから。

日本国内のみならず世界中で、島嶼部のイエネコが生態系の脅威となっている例は枚挙にいとまがない。管理計画はこうした海外の事例も参照しつつ、莫大なコストにも見合うものとして策定されている。

反対派の反対意見に対して、専門家を含む推進側もさらに反論を用意している。科学的なデータと合理的な判断に基づくこれらの説明は、ひとつひとつが納得できるものだ。ただそれを挙げていくとあまりに長くなるし、キリがないのでここでは省略する。ひとつだけ、この管理計画はノネコを捕まえてすぐに殺そうというだけのものではなく、その前段階として様々なステップで幅広い対応を模索しようとしていることは、誤解のないようにしておかなくてはならない。

目立つ感情的な対立

推進側と反対派には、それぞれの主張がある。けれども筆者がいちばん気になったのは、主張に基づく冷静な議論よりも、感情的な対立のほうが目立つということだ。反対派が守ろうとしているのは、人間の都合で殺されそうになっている、本来人間が保護すべき猫の命。推進側が守ろうとしているのは、やはり人間のせいで存続が危うくなっている、希少種を含む生態系という命。どちらも命がかかっているのだから、感情的になってしまうのだろうか。

反対派の一部の人たちは、計画推進側の行政体だけでなく、特定できる専門家などの個人に対しても抗議の電話・メールなどを繰り返し、なかには明らかに業務妨害となる頻度の電話や、誹謗中傷とも取れる数多くのメールも含まれているという。

一方、推進側の専門家のなかにも、やはりごく一部ではあるが、反対を唱えるひとたちに対して敵意をあらわにし、かたくなな態度を取るひともいる。そうした事例を目にするとやはり、この論争はどこまでいっても平行線なのではないかと絶望にも似た気持ちになってしまう。

例えば推進側の一部は、生態系保全のためには猫に対する不妊手術はまったく無意味であるか、もしくはわずかな時間稼ぎでしかないという。けれどもやり方と規模によっては、直接的ではないにしろ、一定の効果があることは明らかだ。そして反対派の団体は病院まで設立してそれを実行に移す用意をしている。もしもこれを拒否するとしたら、あまりにももったいないが、現時点では地元のひとたちからの反応や相談が数多く寄せられ、順調に滑り出しているという。

また、山中深く入り込んで点在しているノネコを捕獲することは民間では不可能であり、行政にしかできない。けれどもそのノネコを、たとえ不妊手術をした上であっても元の山中に戻せばいいとは反対派もいっていない。戻せばまた希少種を襲うであろうことは分かりきったことだからだ。

捕獲されたノネコを、直接奄美大島から連れ出すことは個人にとってはかなりハードルが高い。もらい受けるためには納税証明書等を提出して講習を受け、認定されなければならないなど、条件が厳しく手続きも煩雑だからだ。けれどもいったん連れ出された猫たちに対しては、里親になりたいという問い合わせが相次いでいるそうだ。

新しいモデルケースを

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