『こんなにひどい自衛隊生活』、誕生のきっかけとなった「少佐」との出会い|小笠原理恵

『こんなにひどい自衛隊生活』、誕生のきっかけとなった「少佐」との出会い|小笠原理恵

「なぜ、自衛隊の待遇改善問題に取り組み始めたのでしょうか」。時々、人から聞かれる。「1999年3月に発生した能登半島沖不審船事件に携わった、幹部自衛官とSNSを通じて友人になったからです」と私は答えている。彼のことを私たち、「自衛官守る会」の会員は「少佐」と呼んでいる――。(「まえがき」より)


「すまない」と頭を下げた指揮官

(第一大西丸を名乗る不審船)

海上自衛隊は海上警備行動発令までの間も不審船探索を行っていた。海上警備行動が発令されるまでは、自衛隊は武器の使用が禁止されている。海上警備行動が発令される前に不審船への探索調査を命じられた隊員たちに対して、指揮官は「丸腰で君たちを送り出さなくてはならない。すまない」と頭を下げた。

少佐をはじめこの時出動したP-3Cの搭乗員は遺書を書き、公衆電話に並び、家族へ最後になるかもしれない電話をした。不安と緊張が頂点に達すると、不思議な昂揚感が沸き、みんなニコニコ笑っていたという。

命を懸けて不審船を調査し、対潜爆弾を投下して行き足を止めようとしたが不審船は逃走を続けた。防空識別圏を出るまで不審船の上を飛び交って警戒し続けた彼らは、文字通り命を懸けてこの国の安全を守った英雄だった。

私たちはこの英雄たちが当然、国から手厚い報奨をもらい、大切にされるはずだと思っていた。しかし、国のために命を懸けた自衛隊員がないがしろにされ報われないことを、少佐を通して知ったのだ。

心身を病み、パイロット資格を失った

少佐は飛行機に搭乗できれば辛いことは我慢できたといっていたが、自衛隊のパイロットになった彼に長時間労働が襲いかかった。

民間航空機のパイロットは飛行機の操縦をしていればいい。飛行計画やその許可申請書類等は会社の他の部署がやってくれる。飛行後の報告書作成などにも時間を取られることはない。安全に搭乗できるように、飛行場近くに前泊できる態勢も整っている。

だが、自衛隊のパイロットは自ら飛行計画を立て、許可申請書類も作り、整備の確認などの業務もある。フライトに伴う飛行前と飛行後の業務負担が重くのしかかる。

少佐は、市ヶ谷での勤務時は始発で出勤し、終電で自宅に帰った。睡眠時間は常時4時間前後で土日もほとんど休むことができなかった。

しかも幹部自衛官は2、3年おきの異動で引っ越しが繰り返される。当時はその引っ越し費用の3分の1以上が隊員の自己負担であり、引っ越しのたびに家族と大喧嘩になった(この問題は私も記事を書き、国会でも問題視されて概ね全額を国が負担するようになった。だが、それでも自家用車の運搬等は隊員持ちでいまも問題は山積している)。

過酷すぎる長時間労働によって、彼の心身は病み、それによって、パイロット資格を失った――。

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