【読書亡羊】初めて投票した時のことを覚えていますか? マイケル・ブルーター、サラ・ハリソン著『投票の政治心理学』(みすず書房)

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その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


一票を投じたことの価値は…

そこで、冒頭の質問に立ち返りたい。「初めての選挙の時、どんな気持ちになったか」だ。

最初から「あいつだけは当選させたくない」と言った敵意たっぷりの気持ちで臨んだ人もいるかもしれないが、少し緊張しながらも国民としての権利を行使し、「自分もようやく大人の一員になった」とどこか誇らしい気持ちになったのではないか。

自分が票を投じた候補が負けたとしても(しかもゼロ確で投票締め切り直後に票を数えるまもなく落選が知らされたとしても)、一票を投じたことの価値は損なわれないはずだ。そして民主主義のシステムに則り、選出された候補者には拍手を送り、「落選者の分まで頑張れよ」とひとまずはエールを送る。

スポーツで言えばノーサイド。ルールにのっとって、ひとまずは当選者の正統性を認めるというものだ。本書が解説する「解決感」「和解」とはそういうことを指すのだろう。

わずか10年のうちに分断が

本来、投票というフェアな行為で相容れぬ人々もその結果に相応に納得することを目指しているはずが、むしろ分断を深め、相容れない投票者への憎悪を煽り、怒りを募らせるようになって、ついには敵への復讐心まで煽るものにしまったのが現在ということになる。

本書でもこうした傾向の強まりにはネットの影響が指摘されているが、それにしてもわずか10年弱でここまで人々の内心が攪乱されてしまうとは、驚かざるを得ない。

本書は問いかけている。

それでも選挙民主主義は、意見の相違を調整し、共有の未来を改善するための有効な手段と言えるだろうか? 現在よりも豊かで幸せな生活が、いつの日にか若い世代に訪れるという希望を維持できるような、価値ある道だといえるだろうか?

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書評 読書亡羊 梶原麻衣子

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