まず、イスラエルによってガザの人々の人権が蹂躙されているのは明白ですが、「止めろ」と言えば止まるわけでもありません。停戦のアイデアを出すこともなく、この事態を曖昧な存在である「国際社会」のせいにするのはお門違いの責任回避ですし、何の解決にもなりません。
そもそも、広島平和式典の目的は、平和の実現を希求することです。主催者である広島市が「どの国が悪であるか」を判定する式典ではなく、戦争当時国を排除する式典でもありません。式典の目的を考えれば、すべての国・地域を招待するのが合理的です。また、主催者にも主催者の主体的な総合的判断が存在します。
朝日新聞:市は招待を見送った理由としてロシアによるウクライナ侵攻を挙げ、「昨年度から状況が変わっておらず、同様の対応を取ることにした」と説明している。パレスチナ自治区ガザ地区で戦闘を続けているイスラエルの代表は招待する方針だという。市は「(イスラム組織)ハマスとイスラエルの戦闘については、世界各国を見ても判断が定まっていない。招待することで、平和の発信につなげたい」としている。
このような式典について、個人の価値観を振りかざし、偏狭な【モラリズム moralism】で主催者の総合的判断を非難して要求するのは、【反リベラリズム anti-liberalism】に他なりません。
その要求の仕方も極めて不適切です。「あと何人のガザの人が殺されたら、あと何人の女性たちが犠牲になったら、あと何人の子どもたちが孤児になったら」と広島市に要求するのは心理学で感情的恐喝 emotional blackmail】と呼ばれている【モラル・ハラスメント harcèlement moral】の代表的手法です。
感情的恐喝とは、コントロールしたい相手に対し、人間関係における【恐怖感 fear】【義務感 obligation】【罪悪感 guilt】=【FOG】を与えることで、特定の行動を選択しないよう狡猾に仕向けるものです。
感情的恐喝は一見すると正しそうに見えますが、実際には美徳を振りかざすことで相手を傷つけて支配するテクニックであり、論理的議論を阻害するものです。『サンデーモーニング』のコメンテーターは、概してこの感情的恐喝を乱発しています。心を支配されないよう注意が必要です。
個人ブログ「マスメディア報道のメソドロジー」にて、論理学や心理学の定義に基づいた、メディアの報道・政治家の議論における論理的誤謬などの問題点を指摘。「ひるおび」「報道ステーション」「NEWS23」「サンデーモーニング」などの具体的な放送内容や議員の答弁、記者の発言などを例示しての論理的な分析が話題を呼んでいる。記事の一部を言論プラットフォーム「アゴラ」にも転載中。