その上で、今回の端緒となった「東アジア文化著都市の発展的継承センター」事業すべてを撤回してしまった。
県議会に謝罪して、「不適切発言」の端緒となった事業を白紙にしたのだから、問題はすべてなくなったと言いたいのだろう。またこれ以上の追及はしてくれるなという思いがはっきりと見えた。ほとんどの県議はこれで納得してしまったのかもしれない。
しかし、自民党県議団の強硬派がこのまま黙って、川勝知事の姑息な謝罪を受け入れるのかどうかはわからない。
現在、国政では、安倍派などの裏金疑惑への厳しい追及が連日続き、自民党への逆風が吹き荒れる。これも知事辞職を求める政局にするのかどうか、大きな影響を与えるだろう。
6月県議会では最終日に政局となり、知事不信任決議案を提出する事態となり、深夜を過ぎて翌日未明までもめた。9月県議会も最終日に、今回の「不適切発言」で大騒ぎとなり、12月県議会に先送りしたのだ。
自民党県議団が知事に対して、何らかのアクションを起こすのは、12月21日の県議会最終日となるはずだが、それまで不透明な状況が続くのだろう。
また江間県議は代表質問で、この「不適切発言」とともに、反リニアに徹する知事発言を取り上げた。
江間県議は「リニア建設期成同盟会に加入、本来、諸問題の解決に向けて積極的に関与する立場なのに、解決策を提示しないどころか、知事はマイナス発言を繰り返している。
他県からは静岡県の知事はおかしいと県民までが揶揄されている。誰に聞いても、いまの知事は、リニア建設反対派である、と言われる。なぜ、それほどリニアを通したくないのか、リニア建設を止める理由はいったい何なのか」などとただした。
これに対して、川勝知事は「決してリニアに反対しているわけではない。南アルプストンネル工事の問題がまだ解決されていないことを申し上げているだけだ。この工事、あるいは計画に対して、一度も足を引っ張ることをしたことはない。
むしろ、私の考えを申し上げて、応援をしているというのが私の態度である。私がリニアに反対しているかのごときに言われる方は、明らかに誤解されている」などと答弁した。
まあこれだけ白々しい発言ができるのが、川勝知事の真骨頂なのだろう。
川勝知事の自然保護パフォーマンス
「不適切発言」を訂正しないで、何ともわかりにくい謝罪でごまかそうとするのと同じで、あらゆるごまかしと虚偽を並べ立てて、リニア妨害に徹している。ただ、反論するのさえやっかいである。
最近の事例でわかりやすいのは、生態系への影響を議論した国の有識者会議への対応である。
1年以上にわたって議論した有識者会議が7日、報告書をまとめ、国交省に提出した。川勝知事は5日に環境省を突然、訪問して、今回の報告書提出に言い掛かりをつけた。
報告書発表前に、機先を制することで、静岡県のマイナス評価を高めてくれたわけだ。
同報告書では、自然環境の大幅な変化などで当初の予測と異なる状況が生じることを踏まえ、JR東海が工事をすすめながら、生態系への影響を価値判断して、対策を見直していく管理手法を認めている。
非常に合理的な手法なのだが、県は有識者会議が行われるたびに「事前の生物調査や影響予測が不十分だ」などとする意見書を国に送った。
その集大成が川勝知事の環境省訪問である。
南アルプスの自然生態系は、この10年で大きく変化している。県はJR東海への調査不足を言い立てているが、現状さえちゃんと把握していない。
県生物多様性専門部会の議論は、もともとは固有種のヤマトイワナに限定されていたが、いつのまにか、普通種などを含めて、いったいどんな生物を守りたいのか全くわからなくなってしまった。
川勝知事は「南アルプスの生態系を保全するのは国際的な責務である。なぜなら、ユネスコエコパークに登録されているからだ」などと理念的な発言を繰り返すだけで、南アルプスの自然環境をどのように守っていくのか具体的な方策を何ら示すことさえできない。
環境省への電撃的な訪問など政治的なパフォーマンスを繰り返し、関係者を驚かすことはできても、南アルプスの生態系保全にはつながらない。
川勝知事が、南アルプス国立公園の管理を任せられる県の環境行政の役割と責任を理解していないからだ。だから、リニア反対派と言われるのだ。
このまま川勝知事に任せていてもリニア問題は何ひとつ解決しないだろう。
となると、自民党県議団の対決姿勢に期待するしかない。県議会最終日の21日に“奇跡”が起きることを祈るだけである。
「静岡経済新聞」編集長。1954年静岡県生まれ。1978年早稲田大学政治経済学部卒業後、静岡新聞社入社。政治部、文化部記者などを経て、2008年退社。現在、久能山東照宮博物館副館長、雑誌『静岡人』編集長。著作に『静岡県で大往生しよう』(静岡新聞社)、『家康、真骨頂、狸おやじのすすめ』(平凡社)などがある。