【読書亡羊】河野大臣に勧めたい!? ソフトウェア設計「虎の巻」 倉貫義人『人が増えても早くならない』(技術評論社)

【読書亡羊】河野大臣に勧めたい!? ソフトウェア設計「虎の巻」 倉貫義人『人が増えても早くならない』(技術評論社)

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


マイナシステムのテストは十分だったか

「ソフトウェアが改修を前提としているなら、マイナンバーカードを運用するソフトウェアも、気長に改修と改善を待ちながら、発覚した問題に対処していけばいいんじゃない?」

そう思いたいところだが、例えば公金口座の受取口座の登録が他人のものになっていたという事例はどうか。利用者の登録ミス(ログアウトしなかったため前の人の情報が残ったままのところに別の情報を入れてしまった)とされているが、こうした状況は設計段階かテスト段階で対策を打っておいてしかるべきものだろう。

一般の利用者はエンジニアが思いもよらない動作をしたりするものなので、すべてを予測して先回りするのは難しい。しかし、実利用の前に「一般の利用者」に使わせてどういう事態が起こりうるかを洗い出し、対策を打つことはできる。

ただし、時間と費用があれば、だが。

なぜそういうことが行われなかったのか(あるいは行われたが不十分だったのか)。本書が訴えるソフトウェア開発の誤解が、マイナンバー関係の行政の現場に蔓延っていたからではないか、と疑ってしまう。

また、詳しいことは専門家の説明を待ちたいが「マイナンバーで一元管理」というイメージとは裏腹に、実際には「情報を一元管理せず、カードで各々の情報を呼び出す」仕様になっており、この齟齬も仕様設計や運用を複雑化させているように思える。

Getty logo

ソフトウェアは「一品モノ」

4章では「ソフトウェアは一品モノ」であり、それぞれのシステムは依頼に応じつつも、それぞれのエンジニアの思想や思考によってオーダーメイドで作られていることが指摘される。

外からは同じように見えても、中の作りは全く違う(作った時代や、使われているプログラム言語さえ違う)ことがほとんどだ。

あるシステムとシステムを連携させようという時、「相手側」がどんな思想で設計されたものかは、文字通りフタを開けてみなければ分からない。柔軟性を前提にしていたとしても限界はある。

ソフトウェアやシステムを作る側は、当然、開発前の確認期間や開発後の試用期間を十二分に持ちたかったはずであり、筆者(梶原)とはレベルの違うプロのエンジニアたちができる限りのことをやっているはずだと信じたいが、一方でマイナンバーカードの場合、そうした期間をどの程度持てたのかは気になるところだ。

各システムが、設計当初は連携を想定していなかった(かもしれない)一品モノであることを考慮せず、「他の国だってやっているんだ、がっちゃんこして、大人数で気合を入れてやればすぐできるんだろ」という無茶ぶりが、どこからか現場に降ってきてはいなかったかと想像してしまうのだ。

関連する投稿


【読書亡羊】「私が死んでも代わりはいるもの」――「覚悟ガンギマリ」赤根所長が率いるICC  スティーヴ・クロウショー『権力者を訴追する』(白水社)|梶原麻衣子

【読書亡羊】「私が死んでも代わりはいるもの」――「覚悟ガンギマリ」赤根所長が率いるICC スティーヴ・クロウショー『権力者を訴追する』(白水社)|梶原麻衣子

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


【読書亡羊】九段周辺は「戦争の記憶の貯蔵庫」に溢れている  林英一『戦争記憶の歩き方』(彩流社)|梶原麻衣子

【読書亡羊】九段周辺は「戦争の記憶の貯蔵庫」に溢れている 林英一『戦争記憶の歩き方』(彩流社)|梶原麻衣子

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


【読書亡羊】「信じるか否かはあなた次第」の時代を乗り切るための一冊  松村一志『科学否定論はなぜ人を惹きつけるのか』(ちくま新書)|梶原麻衣子

【読書亡羊】「信じるか否かはあなた次第」の時代を乗り切るための一冊 松村一志『科学否定論はなぜ人を惹きつけるのか』(ちくま新書)|梶原麻衣子

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


【読書亡羊】テック右派が抱く焦燥感の正体とは  カーティス・ヤーヴィン『ネオ君主論』(PHP)|梶原麻衣子

【読書亡羊】テック右派が抱く焦燥感の正体とは カーティス・ヤーヴィン『ネオ君主論』(PHP)|梶原麻衣子

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


【読書亡羊】中身スカスカショート動画に負けない良質「政治コンテンツ」化のススメ  澤田大樹『永田町の人をウォッチしてみた』(カンゼン)|梶原麻衣子

【読書亡羊】中身スカスカショート動画に負けない良質「政治コンテンツ」化のススメ 澤田大樹『永田町の人をウォッチしてみた』(カンゼン)|梶原麻衣子

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


最新の投稿


【今週のサンモニ】張本さんに「あっぱれ!」|藤原かずえ

【今週のサンモニ】張本さんに「あっぱれ!」|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。


【今週のサンモニ】農水省とJAの癒着|藤原かずえ

【今週のサンモニ】農水省とJAの癒着|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。


【今週のサンモニ】ICC問題、石破元総理の高市批判は明らかに間違っている|藤原かずえ

【今週のサンモニ】ICC問題、石破元総理の高市批判は明らかに間違っている|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。


【読書亡羊】「私が死んでも代わりはいるもの」――「覚悟ガンギマリ」赤根所長が率いるICC  スティーヴ・クロウショー『権力者を訴追する』(白水社)|梶原麻衣子

【読書亡羊】「私が死んでも代わりはいるもの」――「覚悟ガンギマリ」赤根所長が率いるICC スティーヴ・クロウショー『権力者を訴追する』(白水社)|梶原麻衣子

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


太郎物語「キキ兄さんとぼく」|瀬戸内みなみ

太郎物語「キキ兄さんとぼく」|瀬戸内みなみ

瀬戸内みなみの「猫は友だち」第11回