【埼玉県川口市 クルドの現場を行く④】通学路を爆走するトラック|西牟田靖

【埼玉県川口市 クルドの現場を行く④】通学路を爆走するトラック|西牟田靖

クルド人の解体業者、その資材置き場が集中する場所(ヤード)が川口市北部にある。通学路になっている狭い道を解体工の4トントラックが爆走。子を持つ親たちは事故が起こらないか不安な日々を送っている。その現場を訪ねてみた。


資材置き場の一角にあるケバブ屋

資材置き場の一角にあるという、朝5時開店のケバブ屋を僕はめざしていた。仕事をはじめる前に、解体業者たちがそこで一服するのだろう。可能であれば、クルド人解体工に話しを聞いてみたいと思ったのだ。

鉄板に沿って、4トンぐらいのトラックが列をなして停まっていた。そのうちの一台の運転席に中東系の青年が座っているのが見えた。

「ケバブ屋はどこですか?」と日本語で話しかけるが、にわかには分からないようで、けげんな態度だ。

「ケバブサンド」とジェスチャーをつけて、伝え直すと、彼は表情を変えずに、進行方向を指さした。

数十メール先に、そのケバブ屋はあった。資材置き場のなかの飯場のような場所だ。ホットサンドを温めた状態にしておくことができるガラスケースや温かい紅茶が入ったステンレス製のポットなどが長いテーブルの上に置かれ、カウンターのようになっていた。

店員は2、3人いたと思う。その「カウンター」のなかにいて、さらに奥のコンテナ上の冷蔵庫から食材を取り出したり、調理をしたり、解体工たちにケバブサンドの受け渡しをしている。

「カウンター」の脇にはテーブルがあり、そこには、10代から60代かと思しき中東系の男たちが、タバコを吸ったり、ケバブサンドに舌鼓を打ったりしていた。店員が日本語で「いらっしゃいませ」と言ってくれなければ、そこが日本だとはとても信じられない。

「日本人ですけど大丈夫ですか?」と言うと、若い店員は「誰でも大歓迎です」とニコニコしながら言った。薄いパンのなかにトマト、チーズ、羊肉などが入っており大変美味。紅茶が無料なのもいい。

《ケバブサンドはとてもおいしかった》
(撮影:筆者)

「トルコのどこから来てるんですか?」

食べ終わり、「これトルコのケバブサンドですよね? すごく美味しかったです」と感想を伝えた。そして聞いてみた。その問いかけは、この取材で会ったトルコ系住民、全員に聞いている、何気ない質問であった。

「ところで、お兄さんたち、トルコのどこから来てるんですか?」

なお、同じ質問をしたときのこれまでの回答は、次のようなものだ。

「川口に来ているのは、ガジアンテプのいくつかの村からやって来ているクルド人です。私は店のオーナーを頼りにしてやってきました」

「姉が日本人と結婚しました。姉をひとりにしておくのはかわいそうなのでガジアンテプから家族みんなで日本にやってきたんです。私たちはクルド人です」

これらの回答に共通していたのは、
・クルド人であることを隠さなかったこと、
・知人や親類を頼って日本にやってきたこと、
・難民として認められるために必要な条件である、政治的な迫害について何も言わなかったこと、
というものだ。

つまりこういうことではないか。政治的難民ではないということを悪びれず自ら吐露していたのだと。

僕が質問した店員は、これまでの答えとはまるで違っていた。

それまでカウンターの向こうでニコニコしていた店員の顔が突然、殺意すら感じさせる怒気を含んだものに変わった。そして後ろにいる店員とクルド語らしい言葉で話し始めた――。

そして、1分ぐらいして、答えた。

「アンカラです」

仏頂面で答える彼に、僕は首を傾げた。アンカラというのはクルド人居住区からかけ離れたトルコの首都だったからだ。

彼にもう少し話を聞きたかったが、それは止めておいた。表情が明らかに怒気を含んでいる。しかも、多勢に無勢だ。考えすぎかもしれないが、身の危険を感じた僕は、解体工たちに話しを聞く前ではあったが、ただちに取材を諦め、その場を離れたのだった。

関連する投稿


旧安倍派の元議員が語る、イランがホルムズ海峡を封鎖できない理由|小笠原理恵

旧安倍派の元議員が語る、イランがホルムズ海峡を封鎖できない理由|小笠原理恵

イランとイスラエルは停戦合意をしたが、ホルムズ海峡封鎖という「最悪のシナリオ」は今後も残り続けるのだろうか。元衆議院議員の長尾たかし氏は次のような見解を示している。「イランはホルムズ海峡の封鎖ができない」。なぜなのか。


「ある意味、地獄が待ってます」退職自衛官を苦しめる若年給付金の返納ルール|小笠原理恵

「ある意味、地獄が待ってます」退職自衛官を苦しめる若年給付金の返納ルール|小笠原理恵

ある駐屯地で合言葉のように使われている言葉があるという。「また小笠原理恵に書かれるぞ!」。「書くな!」と恫喝されても、「自衛隊の悪口を言っている」などと誹謗中傷されても、私は、自衛隊の処遇改善を訴え続ける!


【我慢の限界!】トラックの荷台で隊員を運ぶ、自衛隊の時代錯誤|小笠原理恵

【我慢の限界!】トラックの荷台で隊員を運ぶ、自衛隊の時代錯誤|小笠原理恵

米軍では最も高価で大切な装備は“軍人そのもの”だ。しかし、日本はどうであろうか。訓練や災害派遣で、自衛隊員たちは未だに荷物と一緒にトラックの荷台に乗せられている――。こんなことを一体、いつまで続けるつもりなのか。


自衛官の処遇改善、先送りにした石破総理の体たらく|小笠原理恵

自衛官の処遇改善、先送りにした石破総理の体たらく|小笠原理恵

「われわれは日本を守らなければならないが、日本はわれわれを守る必要がない」と日米安保条約に不満を漏らしたトランプ大統領。もし米国が「もう終わりだ」と日本に通告すれば、日米安保条約は通告から1年後に終了する……。日本よ、最悪の事態に備えよ!


自衛隊の特定秘密不正の多くは政令不備、いますぐ改正を!|小笠原理恵

自衛隊の特定秘密不正の多くは政令不備、いますぐ改正を!|小笠原理恵

潜水手当の不正受給、特定秘密の不正、食堂での不正飲食など、自衛隊に関する「不正」のニュースが流れるたびに、日本の国防は大丈夫かと心配になる。もちろん、不正をすれば処分は当然だ。だが、今回の「特定秘密不正」はそういう問題ではないのである。


最新の投稿


【今週のサンモニ】いつまでも進歩しない国家防衛思考|藤原かずえ

【今週のサンモニ】いつまでも進歩しない国家防衛思考|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。


教科書に載らない歴史|なべやかん

教科書に載らない歴史|なべやかん

大人気連載「なべやかん遺産」がシン・シリーズ突入! 芸能界屈指のコレクターであり、都市伝説、オカルト、スピリチュアルな話題が大好きな芸人・なべやかんが蒐集した選りすぐりの「怪」な話を紹介!


旧安倍派の元議員が語る、イランがホルムズ海峡を封鎖できない理由|小笠原理恵

旧安倍派の元議員が語る、イランがホルムズ海峡を封鎖できない理由|小笠原理恵

イランとイスラエルは停戦合意をしたが、ホルムズ海峡封鎖という「最悪のシナリオ」は今後も残り続けるのだろうか。元衆議院議員の長尾たかし氏は次のような見解を示している。「イランはホルムズ海峡の封鎖ができない」。なぜなのか。


「医療の壁」を幸齢党がぶっ壊す!|和田秀樹

「医療の壁」を幸齢党がぶっ壊す!|和田秀樹

高齢者のインフルエンサーと呼ばれ、ベストセラーを次々と出してきた和田秀樹氏が「幸齢党」を立ち上げた。 なぜ、いま新党を立ち上げたのか。 「Hanadaプラス」限定の特別寄稿!


【今週のサンモニ】バンカーバスターは何を破壊したのか|藤原かずえ

【今週のサンモニ】バンカーバスターは何を破壊したのか|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。