デマ政治と批判された韓国野党の福島訪問|西岡力

デマ政治と批判された韓国野党の福島訪問|西岡力

反日報道の先頭に立ってきた有力紙、朝鮮日報が「科学と事実を拒否、デマ政治の誘惑を捨てられない共に民主党」と題する6日付社説で、処理水放出を危険視する野党の主張に対して科学的根拠をきちんと書いて反論したことは、長く日韓関係を見てきた筆者からすると驚きだった。


韓国の左派野党「共に民主党」の議員団が福島原子力発電所処理水の海洋放出に反対するため4月6~8日に日本を訪問した。それに対して韓国内で強い批判の声が出た。特に、日頃、反日報道の先頭に立ってきた有力紙、朝鮮日報が「科学と事実を拒否、デマ政治の誘惑を捨てられない共に民主党」と題する6日付社説で、処理水放出を危険視する野党の主張に対して科学的根拠をきちんと書いて反論したことは、長く日韓関係を見てきた筆者からすると驚きだった。

有力紙も「無害」強調

社説は野党議員の主張を「何の根拠もない」「でたらめ」と批判し、処理水放出が韓国に一切影響を及ぼさないことを次のように指摘した。

「共に民主党の『福島原発汚染水放出阻止対応団』の議員5人が『何の根拠もない』『でたらめ』などの指摘にもかかわらず、6日に福島県を抗議のために訪問する」

「福島汚染処理水の放出が本当に韓国に影響を及ぼすのであれば、抗議訪問どころか韓国政府が正式に対応すべき問題だ。しかし、これは事実と懸け離れている」

ここで「汚染水」と言わず「汚染処理水」と言っていることも見逃せない。

その上で、社説は韓国海洋科学技術院と韓国原子力研究院の共同シミュレーション結果を詳細に書いた。

「今、福島汚染処理水を放出した場合、太平洋を1周回って韓国の近海に本格的に到達するのは4~5年後だ。もちろんその際には当然希釈され、韓国海域のトリチウムは約10万分の1増えるだけと予測されている。これは数値のチェックそのものに意味がないレベルであり、事実上健康には何の影響も及ぼさないということだ。原子力の専門家はセシウムやストロンチウムなどこれ以外の放射性物質も同じ結果になると述べている」

残る水産物輸入規制問題

実は、先月の尹錫悦韓国大統領訪日の際、日韓議員連盟次期会長の菅義偉前首相が大統領と面会し、処理水放出への理解と福島の水産物の輸入規制撤廃を求めた。菅氏自身が首相在任中に処理水放出を決断したのだから当然のことだ。その時、尹大統領が「時間がかかっても韓国国民の理解を求めていく」と発言したと共同通信が報じ、韓国内で大きな問題となっていた。大統領府はそのような発言はなかったと否定し、福島の水産物の輸入規制を続けると発表したが、野党と左派マスコミは大統領批判を強めている。だから、問題は韓国の内政上の対立なのだ。

残念なのは福島の水産物輸入規制も「科学と事実を拒否」したものなのに、尹政権と保守系新聞にはそのことを直視する姿勢がないことだ。繰り返し言うべきことを言っていくしかない。(2023.04.10国家基本問題研究所「今週の直言」より転載)

関連する投稿


「もしトラ」ではなく「トランプ大統領復帰」に備えよ!|和田政宗

「もしトラ」ではなく「トランプ大統領復帰」に備えよ!|和田政宗

トランプ前大統領の〝盟友〟、安倍晋三元総理大臣はもういない。「トランプ大統領復帰」で日本は、東アジアは、ウクライナは、中東は、どうなるのか?


【読書亡羊】「K兵器」こと韓国製武器はなぜ売れるのか 伊藤弘太郎『韓国の国防政策』(勁草書房)

【読書亡羊】「K兵器」こと韓国製武器はなぜ売れるのか 伊藤弘太郎『韓国の国防政策』(勁草書房)

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


【読書亡羊】「SNSを駆使する情報弱者」に日本を滅ぼされないために必要なこと ウィル・ソマー『Qアノンの正体』(河出書房新社)

【読書亡羊】「SNSを駆使する情報弱者」に日本を滅ぼされないために必要なこと ウィル・ソマー『Qアノンの正体』(河出書房新社)

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


なぜ今なのかが不可解な旧統一協会解散請求|西岡力

なぜ今なのかが不可解な旧統一協会解散請求|西岡力

これは宗教団体に対する「人民裁判」ではないか。キリスト教、仏教、神道などのリーダーを含む宗教法人審議会が解散命令請求に全会一致で賛成したことに戦慄を覚えた。


役に立たない日本学術会議は要らない|奈良林直

役に立たない日本学術会議は要らない|奈良林直

新会長に選ばれた光石衛(まもる)・東京大学名誉教授(機械工学)は、菅義偉前首相が任命を拒否した6人について「改めて任命を求めていく」と語っており、左翼イデオロギーによる学術会議支配が今も続いていることが分かる。


最新の投稿


【読書亡羊】初めて投票した時のことを覚えていますか? マイケル・ブルーター、サラ・ハリソン著『投票の政治心理学』(みすず書房)

【読書亡羊】初めて投票した時のことを覚えていますか? マイケル・ブルーター、サラ・ハリソン著『投票の政治心理学』(みすず書房)

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


【今週のサンモニ】暴力を正当化し国民を分断する病的な番組|藤原かずえ

【今週のサンモニ】暴力を正当化し国民を分断する病的な番組|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。


正常脳を切除、禁忌の処置で死亡!京都第一赤十字病院医療事故隠蔽事件 「12人死亡」の新事実|長谷川学

正常脳を切除、禁忌の処置で死亡!京都第一赤十字病院医療事故隠蔽事件 「12人死亡」の新事実|長谷川学

正常脳を切除、禁忌の処置で死亡――なぜ耳を疑う医療事故が相次いで起きているのか。その実態から浮かびあがってきた驚くべき杜撰さと隠蔽体質。ジャーナリストの長谷川学氏が執念の取材で事件の真相を暴く。いま「白い巨塔」で何が起きているのか。


トランプ前大統領暗殺未遂と政治家の命を軽視する日本のマスメディア|和田政宗

トランプ前大統領暗殺未遂と政治家の命を軽視する日本のマスメディア|和田政宗

7月13日、トランプ前大統領の暗殺未遂事件が起きた。一昨年の安倍晋三元総理暗殺事件のときもそうだったが、政治家の命を軽視するような発言が日本社会において相次いでいる――。


【今週のサンモニ】テロよりもトランプを警戒する「サンモニ」|藤原かずえ

【今週のサンモニ】テロよりもトランプを警戒する「サンモニ」|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。