岸田文雄首相は黒田東彦日本銀行総裁の後任に経済学者の植田和男氏を起用する人事案を14日、国会に提示する。政府、日銀は異次元金融緩和政策の軌道修正を学者総裁の手腕に委ねることになるが、国家と国民にとっての最大の懸案は日本経済再生である。そのカギになる脱デフレは、金融政策一本やりでは達成できないことが過去10年間を見ても歴然としている。
金融緩和のみで経済再生は困難
植田氏は政府から日銀総裁指名の内示を受けたあと、記者団を前に、「今の日銀政策は適切だ」と述べた。植田氏は昨年7月の日経新聞「経済教室」への寄稿で、「異例の金融緩和を2%のインフレが持続的に見込まれるまで継続すると宣言していることが緩和効果を発揮している」と黒田路線を評価した。「利上げで円安にブレーキをかけるようだと、金利・為替の両面から景気を悪化させ、インフレ目標達成も一段と遠のく」と断じた。「円安は日本経済にプラス」とみる一方で、マイナスの影響を受ける低所得層に対しては財政による所得支援を中心とする対応が適切だと説いている。
植田氏の見解は財政の一部に限られるとは言え、財政政策そのものは異次元緩和を主柱とするアベノミクスの限界を乗り越える上で避けて通れない論点である。ところが、これまでの日銀はもっぱら金融緩和の「一本足打法」でよしとしてきた。黒田総裁は異次元緩和政策さえあれば2%物価目標を達成できるとし、2013年9月には翌年4月からの消費税率3%引き上げの実施を迷っていた安倍晋三首相(当時)に決断させた。
増税の結果はデフレ圧力の再発と景気の落ち込みだった。慌てた日銀は2016年1月にマイナス金利政策を導入、さらに9月には米欧では禁じ手の長短金利操作に踏み切った。これらは金融市場の混乱を招きやすいうえに、昨年末からは幾度も市場投機を誘発している。それでいてインフレ目標達成には何の役にも立っていないように見える。