ミャンマー刑務所の生き地獄|大塚智彦

ミャンマー刑務所の生き地獄|大塚智彦

いま、どんどん明らかになるウイグル人権弾圧の実態。 しかし、ミャンマーでも目を覆いたくなるような人権弾圧が……。


ASEANの要請も拒否

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スー・チーさんの33年の禁固刑には各方面から非難が沸き上がっており、ミャンマーが所属する地域連合である東南アジア諸国連合(ASEAN)も素早く動き出した。
 
2022年のASEAN議長国(持ち回り)であるカンボジアのプラク・ソコン外相は、ASEAN特使として6月29日からヤンゴンを訪問し、軍政幹部との会談を重ねて、スー・チーさんを刑務所から軟禁状態にあった施設に戻すよう訴えた。武力行使の停止や関係者との面会なども要求したが、いずれも拒否されたという。
 
ASEANは、クーデター後からスー・チーさん解放に向けて動いてはいた。2021年4月、ASEANはインドネシアのジャカルタでASEAN緊急首脳会議を開催し、軍政トップのミン・アウン・フライン国軍司令官を各国首脳との直接面談の場に引っ張り出すことに成功。
 
スー・チーさんの即時釈放はミン・アウン・フライン国軍司令官の反対で合意に達しなかったものの、議長声明という形で「5項目の合意」で意見の一致をみた。もちろん、ミャンマーも合意した。

「5項目」には「即時武力行為停止」とともに「全ての関係者との面会」が含まれており、以後のASEANのミャンマー問題解決への基本方針となっている。
 
しかし、軍政は「武装市民らの攻撃が続いている」として武力行使の停止を拒否するとともに「裁判の被告人との面会を許す国などない」として、スー・チーさんとの面会を拒絶し続けている。

ASEANとしては、問題解決には民主派指導者であるスー・チーさんとの面会が「必要不可欠」との姿勢だが、軍政の頑なな姿勢の前に、調停工作は行き詰まっている。

30年ぶりの死刑執行

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大塚智彦

大塚智彦

インドネシア在住ジャーナリスト PanAsiaNews 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に『アジアの中の自衛隊』(東洋経済新報社)、『民主国家への道、ジャカルタ報道2000日』(小学館)など。  


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