ミャンマー刑務所の生き地獄|大塚智彦

ミャンマー刑務所の生き地獄|大塚智彦

いま、どんどん明らかになるウイグル人権弾圧の実態。 しかし、ミャンマーでも目を覆いたくなるような人権弾圧が……。


刑務所内で射殺

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2022年4月には、インセイン刑務所内で受刑者の間に不穏な動きがあるとして、主に学生運動家などの政治犯100人以上が国内の56の刑務所に分散移送された。このような措置により、政治犯同士の連絡や情報共有を不可能にして孤立させる狙いが当局にあったとみられている。
 
6月にも同様のことがあった。
 
スー・チーさんの誕生日である6月19日は、クーデター前はスー・チーさんのシンボルでもある花を手にした市民が国中の街角で祝福のデモを行い、街角には多くの花が飾られ、国会でも誕生パーティーが催されるなど「民主化運動を率いた不屈の闘士」にとっては華やいだ一日となる。
 
インセイン刑務所に収容されている政治犯受刑者12人は、スー・チーさんの誕生日に密かにささやかなお祝いを計画。12人は手のひらに反軍政のメッセージを書き、刑務所内で行われる予定だった裁判の法廷で見せるというものだったが、刑務所内にいる当局スパイによって計画が漏れたため、雑居房から独房に移送されたという。
 
独房に移送された12人の政治犯は、お互いのコミュニケーションが取れなくなった。
 
ミャンマー中部の都市マンダレーにあるオポ刑務所とミンヤン刑務所も、現地ではともに「悪名高い刑務所」として知られる。
 
オポ刑務所では、6月5日に刑務官による過剰暴力が原因で2人の政治犯が死亡、13人が負傷した。刑務所長を含む複数の刑務官が金属製の棒で、理由は不明確だが、政治犯に殴り掛かり2人が死亡、13人が刑務所内の病院に収容され、20人が独房送りとなった。150人が同市内のミンヤン刑務所に移送されたというから、かなり大規模な事件だったことがわかる。
 
6月6日には南東部カレン州にあるパアン刑務所で、政治犯2人が刑務所内で射殺され、60人が負傷する事件も報道されている。

生理用品も提供されず

中部サガイン地方域のモンユワにある約900人の政治犯が収容されている刑務所では、6月1日に女性政治犯2人が口論していたところ、刑務官が2人を強く殴打し続けたということが報告されている。
 
このモンユワの刑務所では男性刑務官による女性政治犯へのセクハラ、性的暴力の頻発も伝えられている。
 
たとえば、女性政治犯を男性受刑者の区画に収容したり、プライバシーが確保できないトイレしかなく、水が流れる清潔なトイレがないという。生理用品も提供されないなどの事例が報告されている。
 
5月初旬には、このモンユワ刑務所で処遇改善などを求め、受刑者による暴動が発生し、多数の受刑者が刑務官による過剰暴力で鎮圧されている。
 
ミャンマーの刑務所に関して、六月に大きな動きが2つあった。スー・チーさんの刑務所移送と、民主派政治犯への死刑執行方針表明である。
 
6月22日に、スー・チーさんがヤンゴン市内の軟禁場所から首都ネピドー郊外の刑務所に移送され、独房に収監されたとのニュースが流れ、民主派組織や人権団体から非難の声が一斉にあがった。
 
2021年2月1日のクーデター当日に軍政によって逮捕されたスー・チーさんは、その後、しばらくの間はネピドー市内の自宅に軟禁され、その後はどこかわからない軟禁場所から裁判に出廷していたとされる。今後は、刑務所の独房から刑務所内に設けられる特別法廷に出廷して裁判を受けていた。
 
軍政としては、刑務所に収容することでスー・チーさんの政治的影響力を極力削ぎ、市民の反軍政運動の鎮静化にげたいのだろう。スー・チーさん自身に精神的プレッシャーをかけて闘争心を挫き、民主化運動への情熱を失わせる狙いもあるとみられている。
 
インターネット上には、スー・チーさんが移送されたとみられる、このネピドー郊外の刑務所の外観が映像配信されている。
 
映像を見ると、道路の両側にジャングルが続く地帯の道路脇に突然刑務所の正面玄関とみられるゲートが現れ、銃を持った兵士が警備する門の前には、面会を求める家族らしい人が数人待機している様子が確認できる。
 
ネピドーは2006年にヤンゴンから首都移転した都市で、何もないジャングル地帯の軍用地を開発したから、周囲には広大なジャングルが残っているのだ。スー・チーさんが移送された郊外の刑務所も比較的新しい施設とみられているが、生活環境や食事内容などは明らかにされていない。

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大塚智彦

大塚智彦

インドネシア在住ジャーナリスト PanAsiaNews 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に『アジアの中の自衛隊』(東洋経済新報社)、『民主国家への道、ジャカルタ報道2000日』(小学館)など。  


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