【読書亡羊】ポリコレが生んだ「日本兵」再考の歴史観 サラ・コブナー著、白川貴子訳『帝国の虜囚――日本軍捕虜収容所の現実』(みすず書房)

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その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする週末書評! 今年もよろしくお願いいたします。


フェアな歴史観が描き出すもの

本書は日本軍を「正義」の立場に位置付けてはいない。だからこそフェアに、「日本軍による敵国捕虜の扱いの失敗」がなぜ生じたのかを理解できるのだ。

そしてもう一つ、本書が重要なのは、こうしたフェアな歴史の始点が「ポリコレ」的価値観から生じていることだ。「白人至上主義を批判し、ポリティカルコレクトネスを守る」という昨今の風潮には批判的な保守派も少なくない。

「形を変えた共産主義革命だ」と言わんばかりの評論もあるが、一方で本書は確実に「ポリコレの上に立った『アジア人蔑視を含む白人中心主義の歴史観』の見直し」から生まれたものである。

つまり、アジア人である日本人も「ポリコレによって救われる部分がある」存在なのだ。

ウェブ上には本書の「序章」が公開されているので、まずはこれだけでも読んでほしい。

日本は大戦中「戦争捕虜」を一貫して虐待していたのか? | 『帝国の虜囚』歴史家サラ・コブナーがその実態に迫る

https://courrier.jp/news/archives/309642/

アジア・太平洋戦争中、日本軍が連合国の捕虜を一貫して虐待していたという「定説」が欧米では根強く残っている。アメリカ人の日本現代史家サラ・コブナーは、そうした定説と膨大な資料を照らし合わせ、歴史的な実態を浮き彫りにしていく。1941年12月、大日本帝国の陸海軍は2日にわたり真珠湾、マラヤ、タイを攻撃し、世界に衝撃を与え…

梶原麻衣子 | Hanadaプラス

https://hanada-plus.jp/articles/712/

ライター・編集者。1980年埼玉県生まれ。月刊『WiLL』、月刊『Hanada』編集部を経てフリー。雑誌、ウェブでインタビュー記事などの取材・執筆のほか、書籍の編集・構成などを手掛ける。

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