安倍元総理が〝フル回転〟した理由
防衛費について来年度から5年で43兆円を確保するとの方針が示された。その財源については将来的な増税が検討されているが、私は増税しなくても財源は確保できると考えている。
新型コロナ禍からの経済回復による税収増(現在でも税収は2年連続で過去最高)が見込まれるとともに、外為特会の含み益は37兆円ある。さらに、諸外国では制度が廃止されているのに日本では行っている国債の減債制度をやめることで約15兆円捻出することができる。そして、安倍晋三元総理が提唱していた「防衛国債」の発行の話はどこに行ってしまったのか。
増税ありきではなく、増税しなくても済む方法を考えるべきであるし、自民党内での徹底した議論はこれまで実施されていない。来週、自民党税制調査会で議論がなされる方向であるが、中堅若手の有志をはじめとして、増税反対の声は大いに上がるであろう。増税なき防衛費増強を実現しなくてはならない。
そもそも防衛費の増額がなぜ必要か。
それは北朝鮮のミサイル開発の脅威とともに、もっとも重要なのは中国による侵略への対応である。台湾侵略が迫るなか、「尖閣は台湾の一部」と主張する中国の言動を考えれば、台湾侵略と尖閣侵略は同時に行われる可能性が極めて高く、我が国は国防力、なかでも抑止力を高めることが重要となっている。
なぜ、安倍元総理が今年になって活動をフル回転まで引き上げていたかと言えば、習近平国家主席が3期目の5年に突入するなかで、習氏が4期目以降を目指し毛沢東越えを狙うには、3期目の前半で台湾侵略を始めるのではないかと考えたからである。日本に残された猶予は約2年しかないし、習氏が決断すれば台湾侵略は今にでも始まるから、猶予はもうすでにないとも言える。
こうしたなか、防衛省が米国のトマホークを500発購入するという報道が流れた。詳細について防衛省は明かさないが、方向性として私は間違っていないと思うし、これを実現すべきである。
敵地反撃能力と南西諸島防衛
平成27(2015)年の平和安全法制の国会審議時にも私は導入を提唱していたが、ようやくという気持ちが強い。国産スタンドオフミサイル(長射程巡航ミサイル)の開発配備までは、早くてもまだ2年かかるから、抑止力のために速やかにトマホークを購入し配備すべきである。
今までのイージスシステムをはじめとする日本の迎撃態勢は、敵がピストルを発射し、こちらに向かってくる弾を、こちらもピストルを発射し、発射した弾で撃ち落とすというものであった。100発100中になればいいが、確率論からすると1発か2発撃ち漏らす可能性は否定できない。
だから、相手が撃とうとしたときに、撃つならこちらも撃ちますよということができれば、相手は自らの命が失われるかもしれないと撃つのを躊躇する。これが抑止力であり、敵地を破壊できる能力をまずトマホークで持つことは極めて重要である。
さらに重要なことは、敵地反撃能力を持った上で、いつどの段階になれば敵を叩けるのかということである。これまでの政府の答弁では、ミサイルがまさに発射台にあり燃料が充填されていて日本を明らかに攻撃する時、などとされてきたが、細かく規定すれば相手に手の内を明かすことになる。
今回、敵地反撃能力の政府見解が示され、与党合意もなされたが、いつどの段階になれば敵国が攻撃に着手したとみなすかは明記されなかった。これは抑止力の観点から重要であり、手の内を明かさず、我が国が判断すれば敵地攻撃をできるということを担保することが、抑止力を高めることに繋がるのである。
さらに、沖縄において南西諸島防衛を担う陸上自衛隊の第15旅団を、師団に準ずる「南西防衛集団」に格上げする方針も極めて重要だ。必ず実現をしなくてはならない。