習近平が狙う「毛沢東越え」と国家による「臓器狩り」|和田政宗

習近平が狙う「毛沢東越え」と国家による「臓器狩り」|和田政宗

第20回中国共産党大会によって、習近平独裁は完全に確立された。国際社会は中国の横暴を阻止しなくてはならないが、まだあまり知られていない問題もある。それは、中国がウイグル人や政治犯とされる人たちから移植用の臓器を摘出する「臓器狩り」についてだ。


胡錦涛はなぜ激怒したのか?

Getty logo

中国共産党大会が終わり、習近平総書記の3期目が決まった。党大会閉会式では、胡錦涛前総書記が退場させられるという衝撃的な場面があった。

この場面については、「胡氏の健康問題が理由だ」とか「胡氏は人事を知っており、突然退場させられたのではない」と述べている“中国専門家”もいるが、これらは中国共産党が流布している主張と同じであり、私はそうではないと考えている。

今回の事態については、中国国内から生の情報を取り中国と対峙している峯村健司氏(キャノングローバル戦略研究所主任研究員)の分析と、私は同様の分析をしている。その分析とは、決定した人事に胡錦涛前総書記がブチ切れて発言しようとし、退出させられたというものだ。

胡氏に近い李克強首相や汪洋氏が、7人からなる政治局常務委員(チャイナセブン)から外されたことに怒ったのだという説を唱える人もいるが、この2人の退任は既定路線であったのでその主張はあたらない。

胡錦涛氏が激怒したのは、可愛がってきた胡春華副首相の降格人事である。両氏は共産党のエリート集団「共産主義青年団(共青団)」出身であり、胡春華氏は今回、政治局員から政治局常務委員に昇格するとみられていたが、何と昇格では無く、逆に中央委員に降格させられたのである。

これは驚きの人事であり、政治局常務委員7人は留任した中間派の王滬寧を除き、全てが習近平総書記の側近で固められた。この人事は当然覆らないわけであったが、最後に一言文句を言おうとした胡錦涛前総書記も強制的に退場させられ、習氏独裁は完全に確立したのである。

臓器摘出のためにウイグル人らを殺害

こうして3期目に入った習氏が狙うのは「毛沢東超え」であり、それは台湾の武力統一である。台湾への武力侵略は絶対に防がなくてはならず、国際社会は中国の横暴を阻止しなくてはならないが、国際連携の中で重要なのは軍事的観点とともに人権の観点である。

ウイグルやチベット、南モンゴルでの人権弾圧、虐殺は、ここ数年で世界に広く知られることとなったが、中国がウイグル人や政治犯とされる人たちから移植用の臓器を摘出する「臓器狩り」については、まだあまり知られていない。

私は先週、この問題に30年近く取り組んできたカナダ人弁護士デービッド・マタス氏と面会することが出来た。マタス氏は、カナダ下院副議長を務めたデービッド・キルガー氏とともに調査を続け、2006年に調査報告書を発表し、それを基に『Bloody Harvest(中国臓器狩り)』が出版された。

マタス氏の調査では、中国では年間6万~10万件の移植が行われており、中国が公式に発表している1万件の移植件数とは大きな差がある。それをマタス氏は、ウイグル人や政治犯とされる人たちから摘出されたものであると分析している。

2014年に両氏の調査をもとに制作されたドキュメンタリー『ヒューマン・ハーベスト』では、臓器強制摘出に関与した医師や監視役警官らの証言、移植ツアーに参加し中国で手術を受けた患者や家族の証言などが公表された。『ヒューマン・ハーベスト』は、米国放送界で最高栄誉であるピーボディ賞や英国際放送協会(AIB)最優秀賞など、数々の国際賞を受賞した。

このドキュメンタリーや、弁護士、ジャーナリストなどの調査によれば、臓器摘出は生きている人間から行われており、臓器摘出のためにウイグル人や政治犯とされる人たちが殺害されている。

これらは日本での調査でも裏付けが進められており、日本から中国への臓器移植ツアーでは、通常はドナーが見つかるまで長い期間がかかるはずが、「予約」をすれば2週間ほどでドナーが見つかると中国の病院担当者が電話で話す録音が存在する。

関連する投稿


進化する自衛隊隊舎 千僧駐屯地に行ってみた!|小笠原理恵

進化する自衛隊隊舎 千僧駐屯地に行ってみた!|小笠原理恵

かつての自衛隊員の隊舎といえば、和式トイレに扇風機、プライバシーに配慮がない部屋配置といった「昭和スタイル」の名残が色濃く残っていた。だが今、そのイメージは大きく変わろうとしている。兵庫県伊丹市にある千僧駐屯地(せんぞちゅうとんち)を取材した。


人権弾圧国家・中国との「100年間の独立闘争」|石井英俊

人権弾圧国家・中国との「100年間の独立闘争」|石井英俊

人権弾圧国家・中国と対峙し独立を勝ち取る戦いを行っている南モンゴル。100年におよぶ死闘から日本人が得るべき教訓とは何か。そして今年10月、日本で内モンゴル人民党100周年記念集会が開催される。


変わりつつある自衛官の処遇改善 千僧駐屯地に行ってみた!|小笠原理恵

変わりつつある自衛官の処遇改善 千僧駐屯地に行ってみた!|小笠原理恵

自衛隊員の職務の性質上、身体的・精神的なストレスは非常に大きい。こうしたなかで、しっかりと休息できる環境が整っていなければ、有事や災害時に本来の力を発揮することは難しい。今回は変わりつつある現場を取材した。


「習近平失脚説」裏付ける二つの兆候|長谷川幸洋【2025年9月号】

「習近平失脚説」裏付ける二つの兆候|長谷川幸洋【2025年9月号】

月刊Hanada2025年9月号に掲載の『「習近平失脚説」裏付ける二つの兆候|長谷川幸洋【2025年9月号】』の内容をAIを使って要約・紹介。


終戦80年に思うこと「私は『南京事件』との呼称も使わない」|和田政宗

終戦80年に思うこと「私は『南京事件』との呼称も使わない」|和田政宗

戦後80年にあたり、自虐史観に基づいた“日本は加害者である”との番組や報道が各メディアでは繰り広げられている。東京裁判や“南京大虐殺”肯定派は、おびただしい数の南京市民が日本軍に虐殺されたと言う。しかし、南京戦において日本軍は意図的に住民を殺害したとの記述は公文書に存在しない――。


最新の投稿


悲劇の空母「飛龍」の無念|上垣外憲一【2025年10月号】

悲劇の空母「飛龍」の無念|上垣外憲一【2025年10月号】

月刊Hanada2025年10月号に掲載の『悲劇の空母「飛龍」の無念|上垣外憲一【2025年10月号】』の内容をAIを使って要約・紹介。


【今週のサンモニ】「再エネ教」の信者の集会|藤原かずえ

【今週のサンモニ】「再エネ教」の信者の集会|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。


宇宙人と東大病院|なべやかん

宇宙人と東大病院|なべやかん

大人気連載「なべやかん遺産」がシン・シリーズ突入! 芸能界屈指のコレクターであり、都市伝説、オカルト、スピリチュアルな話題が大好きな芸人・なべやかんが蒐集した選りすぐりの「怪」な話を紹介!信じるか信じないかは、あなた次第!


進化する自衛隊隊舎 千僧駐屯地に行ってみた!|小笠原理恵

進化する自衛隊隊舎 千僧駐屯地に行ってみた!|小笠原理恵

かつての自衛隊員の隊舎といえば、和式トイレに扇風機、プライバシーに配慮がない部屋配置といった「昭和スタイル」の名残が色濃く残っていた。だが今、そのイメージは大きく変わろうとしている。兵庫県伊丹市にある千僧駐屯地(せんぞちゅうとんち)を取材した。


【編集長インタビュー】参政党への疑問を徹底的に問い糺す|神谷宗幣【2025年10月号】

【編集長インタビュー】参政党への疑問を徹底的に問い糺す|神谷宗幣【2025年10月号】

月刊Hanada2025年10月号に掲載の『【編集長インタビュー】参政党への疑問を徹底的に問い糺す|神谷宗幣【2025年10月号】』の内容をAIを使って要約・紹介。