【朝鮮半島通信】北朝鮮は安倍暗殺を「CIAの陰謀」と見ている!|重村智計

【朝鮮半島通信】北朝鮮は安倍暗殺を「CIAの陰謀」と見ている!|重村智計

北朝鮮はなぜ、安倍晋三元首相の死去を一切報じないのか。一般的には「指導者暗殺」がタブーだからと説明されるが、実は違う。ポイントになるのは、9月に北朝鮮で採択された「核兵器使用法」だ。なぜこの法律が安倍暗殺にかかわってくるのか。


3発目の弾丸こそがCIA

Getty logo

北朝鮮は安倍晋三元首相の死去をこれまで一切報じていない。安倍元首相の拉致問題への強い決意と独自の北朝鮮制裁に強い反発を抱いていたが、だからこそ全く報じないのは異常と言える。

この理由は、一般的には「指導者暗殺」がタブーだからと説明される。すなわち、「指導者を暗殺できる」との意識が広がると困るというものだが、実は違う。ポイントになるのは、9月に北朝鮮で採択された「核兵器使用法」だ。

韓国では日本が敗北した8月15日が 独立記念日(光復節)で、大統領が毎年演説をするが、北朝鮮の指導者はその日に演説しない。

北朝鮮は、「金日成主席が日本帝国主義との戦闘に勝利した」との立場だからだ。北朝鮮は日本帝国主義と戦い勝利したが、韓国は日本帝国主義と戦った事実もないし、当然、英雄もいない。

この違いが韓国の国家としての正統性への疑問となり、韓国の左翼勢力が北朝鮮の国家としての正統性に憧れる理由である。文在寅前大統領ら左翼が北朝鮮の言いなりになるのも、ここが原点である。

北朝鮮は 建国記念日の9月9日の前日、最高人民会議(国会)を開き、自らを核保有国と宣言する法律「核兵器使用法」を採択した。金委員長は演説で「非核化交渉には応じない」と述べ、核兵器を放棄しない立場を強調した。

朝鮮中央通信によると、この法律は核兵器使用の条件を、
①核使用の決定権は金正恩委員長だけ
②国家武力指揮組織が補佐する、と明示したものだという。
つまり、「指導者の独断では決定しないシステム」ということになる。

さらに核兵器使用の条件については、
①国家指導部が攻撃された場合
②重要戦略的対象が攻撃された場合
③核攻撃が緊迫した場合
④国家存立の危機、と明記した。

なぜこの法律が安倍暗殺にかかわってくるのか。

まず、北朝鮮の工作機関は安倍暗殺事件が起きたあと、独自に真相を探り、何と「CIAによる犯行」という陰謀論的な結論に達した。
「殺害犯の意図が明らかにされない」
「検死結果が公表されない」
「3発目の弾丸が上から下に突き抜け、これが致命傷になった」
と理屈をつけて、3発目の弾丸こそがCIAによるものだ、と結論づけたのである。

北朝鮮の工作機関は、直ちに“極秘情報”として指導部に報告した。「中国が台湾侵攻した際の自衛隊派遣要請を、安倍元首相がバイデン政権に断ったから」というもっともらしい理由まで付け加えられた。

平壌の指導部は驚愕し、安倍元首相が暗殺されるのならば、金委員長の命も狙われる……と本気で憂慮した。それを阻止するために、「国家指導部が攻撃されたら核兵器を使用する」との法律を採択したのだ。いわば、アメリカへの脅しのつもりなのである。

陰謀論から法令を採択するのは北朝鮮くらいではないだろうか。

ロシアが北朝鮮に兵器売却を要請した理由

9月5日、米ニューヨーク・タイムズ紙が「ロシアが数百万発の砲弾やミサイルを北朝鮮から購入している」と報じた。北朝鮮は見返りとしてロシアから小麦と石油を入手し、食糧不足などを解消しようとしている。

米大統領府はこの内容について「可能性がある」とコメントし、米国務省報道官は「報道が事実だとすれば、北朝鮮に対する国連制裁違反になる」と反発した。さらに、米政府関係者は「北朝鮮の兵器がすでにロシアに到着している事実を確認した」とも述べている。

北朝鮮の武器と砲弾がどの程度有効に機能するのか? 米情報筋もこの点は明らかにしていないが、中国の軍当局によると「質はあまり良くない」から、あまり役に立たないのではという指摘が多い。

それでもロシアが北朝鮮に兵器売却を要請したのは、中国がロシアへの武器売却を拒否しているためだ。北朝鮮にも、中国製武器の転売をしないよう求めている。

中国はウクライナとの外交関係を維持し、ロシアのウクライナ戦争への支持を表明していない。核やミサイル技術、航空母艦建設でウクライナの協力を得ており、関係を必要としているからだ。

一方、北朝鮮も、これまではミサイルや核開発でウクライナの技術協力を仰いでおり、重要部品もウクライナから購入していたが、今回の件で関係が完全に断絶した。今後のミサイルと核兵器の開発に相当な支障が生じることになるだろう。

食料や石油のためになけなしの武器や弾薬を売り払い、虎の子の核兵器もウクライナとの関係断絶で手詰まりになる。そんななかで、核兵器使用法を採択する……北朝鮮の苦悩はまだまだ続きそうだ。

関連する投稿


衆院解散、総選挙での鍵は「アベノミクス」の継承|和田政宗

衆院解散、総選挙での鍵は「アベノミクス」の継承|和田政宗

「石破首相は総裁選やこれまで言ってきたことを翻した」と批判する声もあるなか、本日9日に衆院が解散された。自民党は総選挙で何を訴えるべきなのか。「アベノミクス」の完成こそが経済発展への正しい道である――。


石破新総裁がなぜ党員票で強かったのか|和田政宗

石破新総裁がなぜ党員票で強かったのか|和田政宗

9月27日、自民党新総裁に石破茂元幹事長が選出された。決選投票で高市早苗氏はなぜ逆転されたのか。小泉進次郎氏はなぜ党員票で「惨敗」したのか。石破新総裁〝誕生〟の舞台裏から、今後の展望までを記す。


青山繁晴さんの推薦人確保、あと「もう一息」だった|和田政宗

青山繁晴さんの推薦人確保、あと「もう一息」だった|和田政宗

8月23日、青山繁晴さんは総裁選に向けた記者会見を行った。最初に立候補を表明した小林鷹之さんに次ぐ2番目の表明だったが、想定外のことが起きた。NHKなど主要メディアのいくつかが、立候補表明者として青山さんを扱わなかったのである――。(サムネイルは「青山繁晴チャンネル・ぼくらの国会」より)


なぜ自民党総裁選で青山繁晴さんを支援するのか|和田政宗

なぜ自民党総裁選で青山繁晴さんを支援するのか|和田政宗

9月12日(木)に告示され、27日(金)に開票が行われる自民党総裁選。私が選対事務局長を務める青山繁晴さんは、8月23日に記者会見を行った。しっかりと推薦人20人を9月12日に確定できるよう頑張りたい。(写真提供/産経新聞社)


トランプの真意とハリスの本性|【ほぼトラ通信4】石井陽子

トランプの真意とハリスの本性|【ほぼトラ通信4】石井陽子

「交渉のプロ」トランプの政治を“専門家”もメディアも全く理解できていない。トランプの「株価暴落」「カマラ・クラッシュ」予言が的中!狂人を装うトランプの真意とは? そして、カマラ・ハリスの本当の恐ろしさを誰も伝えていない。


最新の投稿


【今週のサンモニ】サンモニ名物コメンテーターの差別発言|藤原かずえ

【今週のサンモニ】サンモニ名物コメンテーターの差別発言|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。


【読書亡羊】「情報軽視」という日本の宿痾をどう乗り越えるのか 松本修『あるスパイの告白――情報戦士かく戦えり』(東洋出版)

【読書亡羊】「情報軽視」という日本の宿痾をどう乗り越えるのか 松本修『あるスパイの告白――情報戦士かく戦えり』(東洋出版)

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


【今週のサンモニ】口だけの核廃絶は絶望的なお花畑|藤原かずえ

【今週のサンモニ】口だけの核廃絶は絶望的なお花畑|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。


衆院解散、総選挙での鍵は「アベノミクス」の継承|和田政宗

衆院解散、総選挙での鍵は「アベノミクス」の継承|和田政宗

「石破首相は総裁選やこれまで言ってきたことを翻した」と批判する声もあるなか、本日9日に衆院が解散された。自民党は総選挙で何を訴えるべきなのか。「アベノミクス」の完成こそが経済発展への正しい道である――。


【今週のサンモニ】偽善と悪意に溢れたコメント連発|藤原かずえ

【今週のサンモニ】偽善と悪意に溢れたコメント連発|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。