航空自衛隊のアラートハンガーも!「撮影禁止!」できない日本の病|小笠原理恵

航空自衛隊のアラートハンガーも!「撮影禁止!」できない日本の病|小笠原理恵

潜水艦や戦闘機、空母の改修工事まで撮影可能な稀有な国として、外国から軍事ファンが大量に押し寄せる日本。自衛隊施設や関連工場が見物できる場所に公園や展望台を置き、ベンチを設置する自治体も多い。軍事情報を観光資源にしてもいいのか。


軍事情報は国家機密ではなく観光資源

これまで日本の情報保全や危機管理意識の低さについての記事を寄稿してきた。潜水艦や空母化改修工事中の艦艇等が自由に撮影され、動画サイトで全世界に公開されている。自衛隊施設も米軍のように広大な敷地はなく、施設を近距離で視認できる状況である。

また、自衛隊は撮影の規制や対策も十分でない。米国や中国は情報を漏洩させないために危機意識を持って徹底した対策を行っている。わずかな情報漏洩も致命傷になり得る。それは国や企業、個人と同じだ。組織の規模が大きいほど徹底した対策が必要だ。

このような日本の甘い危機管理が続けば、防衛の根幹を揺るがし、国家存亡にかかわる事態になりかねない。早急に法を整備し、対策をとる必要がある。だが、日本では憲法上、軍隊は存在しない。自衛隊は軍事機密を持つ「軍」ではなく、透明性を要求される「行政組織」だ。

自衛隊は外観を撮影禁止にできず、視界を遮断する壁や防護壁を作る予算もない。撮影リスクに対して、予算内でできる限りは隠すが、それでもダメなら仕方ないという認識だ。合法的な撮影は非難できない。

敵に能力を知られた上での防衛は過酷なものになる。

潜水艦や戦闘機、空母の改修工事まで撮影可能な稀有な国として、外国から軍事ファンが大量に押し寄せる日本。自衛隊施設や関連工場が見物できる場所に公園や展望台を置き、ベンチを設置する自治体も多い。日本では軍事情報は国が守らなければならない国家機密ではなく、観光資源なのだ。

撮影者は自衛隊の部隊行動の時間まで知り尽くしている。自衛隊の日々の活動を熟知し、特別な装備品は詳細に解説される。政治家も自治体も自衛隊員自身も国民もそれが異常だと感じるセンサーがもはや機能していない。

アラートハンガーを見渡せる「松原展望台広場」

さて、今回は日本で最も緊迫している航空自衛隊の「アラートハンガー(要撃戦闘機の緊急発進用格納庫)」についてだ。

アラートハンガーとはスクランブル対応の航空機やパイロット等が24時間対応でスタンバイする格納庫だ。日本の防空識別圏(ADIZ : Air Defense Identification Zone)に不審な航空機が近づき、領空に侵入する可能性があると判断されたときに、スクランブル対応戦闘機が発進する。

警告に応じず、退去しない場合は警告射撃を行うため、このアラートハンガーの戦闘機には燃料が搭載され、射撃可能な状態にある。

2021年度には1004回と緊急発進する回数も過去2番目となっている。数分もたたないうちに領土に到達する可能性がある航空機への対応は重要である。そんなアラートハンガーも撮影可能だ。YouTubeで確認した動画には2機のF-2戦闘機がスタンバイしている。

その動画では撮影開始後1分でアラートハンガーが開かれる。撮影開始1分後に格納庫が開くという宣言通りにゲートが開き、膝に印のあるのがパイロットですという解説も入る。撮影者はアラートハンガー内のことを知り尽くしているようだ。

航空自衛隊の滑走路や格納庫との境は鉄条網があるが、そこには監視員はいない。動画撮影中に保安パトロール車が素通りしている。撮影している人がいても声をかけることはない。しかも、このアラートハンガーを見渡せる「松原展望台広場」は行橋市(自治体)が設置している。

関連する投稿


トランプ前大統領暗殺未遂と政治家の命を軽視する日本のマスメディア|和田政宗

トランプ前大統領暗殺未遂と政治家の命を軽視する日本のマスメディア|和田政宗

7月13日、トランプ前大統領の暗殺未遂事件が起きた。一昨年の安倍晋三元総理暗殺事件のときもそうだったが、政治家の命を軽視するような発言が日本社会において相次いでいる――。


安倍元総理の命日にあたり、その功績を改めて記す|和田政宗

安倍元総理の命日にあたり、その功績を改めて記す|和田政宗

本日は安倍晋三元総理の命日。安倍元総理が凶弾に倒れてから2年を迎えた。改めてご冥福をお祈りするとともに、非道な暗殺を満身の怒りをもって非難する。


辺野古の反基地運動には極左暴力集団が入り込んでいる|和田政宗

辺野古の反基地運動には極左暴力集団が入り込んでいる|和田政宗

6月28日の午前10時過ぎ沖縄県名護市安和で、辺野古の反基地運動により警備員に死者が出てしまった。反基地運動の活動家たちは、これまでも走行しようとするダンプカーの下に入り込むなど危険な行為を繰り返していた。そして、今回、それを制止しようとした警備員が亡くなったのである――。


憲法改正の国会発議はいつでもできる、岸田総理ご決断を!|和田政宗

憲法改正の国会発議はいつでもできる、岸田総理ご決断を!|和田政宗

すでに衆院の憲法審査会では4党1会派の計5会派が、いま行うべき憲法改正の内容について一致している。現在いつでも具体的な条文作業に入れる状況であり、岸田総理が決断すれば一気に進む。


6月10日施行の改正入管法で一体、何が変わるのか?|和田政宗

6月10日施行の改正入管法で一体、何が変わるのか?|和田政宗

不法滞在者や不法就労者をなくす私の取り組みに対し、SNSをはじめ様々な妨害があった――。だが、改正入管法施行の6月10日以降、誰が正しいことを言っているのか明らかになっていくであろう。(写真提供/時事)


最新の投稿


【読書亡羊】初めて投票した時のことを覚えていますか? マイケル・ブルーター、サラ・ハリソン著『投票の政治心理学』(みすず書房)

【読書亡羊】初めて投票した時のことを覚えていますか? マイケル・ブルーター、サラ・ハリソン著『投票の政治心理学』(みすず書房)

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


【今週のサンモニ】暴力を正当化し国民を分断する病的な番組|藤原かずえ

【今週のサンモニ】暴力を正当化し国民を分断する病的な番組|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。


正常脳を切除、禁忌の処置で死亡!京都第一赤十字病院医療事故隠蔽事件 「12人死亡」の新事実|長谷川学

正常脳を切除、禁忌の処置で死亡!京都第一赤十字病院医療事故隠蔽事件 「12人死亡」の新事実|長谷川学

正常脳を切除、禁忌の処置で死亡――なぜ耳を疑う医療事故が相次いで起きているのか。その実態から浮かびあがってきた驚くべき杜撰さと隠蔽体質。ジャーナリストの長谷川学氏が執念の取材で事件の真相を暴く。いま「白い巨塔」で何が起きているのか。


トランプ前大統領暗殺未遂と政治家の命を軽視する日本のマスメディア|和田政宗

トランプ前大統領暗殺未遂と政治家の命を軽視する日本のマスメディア|和田政宗

7月13日、トランプ前大統領の暗殺未遂事件が起きた。一昨年の安倍晋三元総理暗殺事件のときもそうだったが、政治家の命を軽視するような発言が日本社会において相次いでいる――。


【今週のサンモニ】テロよりもトランプを警戒する「サンモニ」|藤原かずえ

【今週のサンモニ】テロよりもトランプを警戒する「サンモニ」|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。