つぎに、歴史の闇の中に葬られようとしている日共のリーダー・宮本顕治による戦前の「リンチ致死事件」に再びメスを入れ、明るみに引き出したことである。
この仕事は1970年代にすでに故・立花隆氏の『日本共産党の研究』によって、十分に究明された感がある。しかし、それから50年以上が経過した。本書では知の巨人・立花氏の研究にも依拠しつつ、いわば巨人の肩の上に乗って、さらに広い視野でリンチ事件の再検証を試みた。リンチを受け死亡した犠牲者の死因について、立花氏の「外因性ショック死」(暴行死)の説と、宮本顕治による「内因性ショック死」(特異体質による急死)という説の対立があるが、本書では1980年代後半になって初めて解明された医学症例を根拠に、死因についてのあらたな仮説を提案している。日共は現在もリンチ暴行の事実すら「特高によるでっち上げ」として認めていないだけに、歴史的な検証が必要な問題である。
同性愛者を差別・迫害してきた事実
三つ目は、いまでこそ、LGBTの権利擁護や多様性の尊重を看板に掲げている日共がつい最近まで、「退廃」として同性愛者を差別・迫害してきた事実を発掘していることである。日共の同性愛差別の根源は、同党が理論的基礎としている「科学的社会主義」の創始者であるマルクス、エンゲルスの思想にあることを明らかにした。彼らは性愛の本質は「生の生産」にあると主張していた。「同性愛は生産性がない」という保守政治家の発言を目の敵に攻撃する日共だが、その元祖はマルクスにあったのである。
同性愛差別の問題は、党創立100年にあたって刊行された他の類書ではまったく触れられておらず、本書だけの特色である。日共を多面的、客観的にとらえる上で、ぜひともお読みいただきたいゆえんである。
読者のみなさんの忌憚のないご批評を賜りたい。