もはや米海軍だけで抑止は効かない|織田邦男

もはや米海軍だけで抑止は効かない|織田邦男

台湾有事は日本有事である。もはや米海軍だけでは抑止は効かなくなった。日本は防衛力強化を急がねばならない。日本のEEZにミサイルを撃ち込まれても、国家安全保障会議(NSC)が開かないという感度の鈍さでは、取り返しがつかなくなる。


ペロシ米下院議長の台湾訪問を受けて、台湾海峡情勢が一挙に緊迫した。

7月28日、習近平中国国家主席はバイデン米大統領との電話協議で、ペロシ氏の訪台があれば「深刻な結果」をもたらすと述べ、「火遊びする者は身を焦がす」と強く警告した。これより先、バイデン大統領は、記者団にペロシ氏訪台に関する米軍の懸念を語り、政権内に慎重論があることを明かした。そのため中国は、威嚇を強めればペロシ氏訪台を阻止できると思ったのかもしれない。しかし、結果的には8月2~3日の訪台を阻止できなかった。

面子を潰された中国は、ペロシ氏の台湾到着直後、台湾を包囲するかのように6か所で実弾演習を実施する計画を発表した。4日に11発の弾道ミサイルが実射され、うち5発が日本の排他的経済水域(EEZ)に落下したという。

空母派遣に動じなかった中国

他方、米国は不測の事態に備え、米第7艦隊所属の原子力空母「ロナルド・レーガン」、最新鋭戦闘機F35Bを艦載した強襲揚陸艦「トリポリ」「アメリカ」などを出動させた。ペロシ氏の安全は確保できたが、「重要軍事演習」という名の中国の威嚇行動を抑止することはできなかった。1996年の台湾海峡危機のときと大きな違いである。

1996年、中国は台湾初の総統直接選挙に際し、台湾近海にミサイルを発射し、民主化の動きを牽制した。これに対し米国は、2隻の空母「インディペンデンス」と「ニミッツ」を中心とする空母機動部隊を台湾周辺に派遣した。これにより中国は矛を収めざるを得なくなった。翌1997年には、ギングリッジ米下院議長(当時)の訪台を許してしまう。中国の空母建設は、この時の苦い教訓から始まった。

今回、中国は矛を収めるどころか、ミサイル実弾射撃の他にも、戦闘機、爆撃機を100機以上、駆逐艦など10隻以上を台湾周辺に送った。また、中国本土での台湾人拘束や台湾産一部食品の輸入規制もあり、居丈高の度を強めた。

日本は防衛力強化急げ

1996年と様相が一変した理由は、やはり中国が力をつけたことだろう。台湾統一の時期が今後18カ月以内へ早まったと見る米当局者もいる。

6月、中国3隻目の空母「福建」が進水した。艦載機の離陸に「電磁カタパルト」方式が初めて採用された。同空母が戦力として使えるようになると、米空母部隊と戦闘能力が対等になる。いよいよ台湾侵攻が現実味を帯びてくる。

台湾有事は日本有事である。もはや米海軍だけでは抑止は効かなくなった。日本は防衛力強化を急がねばならない。日本のEEZにミサイルを撃ち込まれても、国家安全保障会議(NSC)が開かないという感度の鈍さでは、取り返しがつかなくなる。時間はそんなに残されていないのだ。(2022.08.08国家基本問題研究所「今週の直言」より転載)

関連する投稿


トランプの真意とハリスの本性|【ほぼトラ通信4】石井陽子

トランプの真意とハリスの本性|【ほぼトラ通信4】石井陽子

「交渉のプロ」トランプの政治を“専門家”もメディアも全く理解できていない。トランプの「株価暴落」「カマラ・クラッシュ」予言が的中!狂人を装うトランプの真意とは? そして、カマラ・ハリスの本当の恐ろしさを誰も伝えていない。


慰安婦問題を糾弾する「日韓共同シンポジウム」の衝撃(東京開催)|松木國俊

慰安婦問題を糾弾する「日韓共同シンポジウム」の衝撃(東京開催)|松木國俊

日米韓の慰安婦問題研究者が東京に大集合。日本国の名誉と共に東アジアの安全保障にかかわる極めて重大なテーマ、慰安婦問題の完全解決に至る道筋を多角的に明らかにする!シンポジウムの模様を登壇者の一人である松木國俊氏が完全レポート、一挙大公開。これを読めば慰安婦の真実が全て分かる!


「核爆弾の奴隷たち」北朝鮮驚愕の核兵器開発現場|石井英俊

「核爆弾の奴隷たち」北朝鮮驚愕の核兵器開発現場|石井英俊

「核爆弾の奴隷たち」――アメリカに本部を置く北朝鮮人権委員会が発表した報告書に記された衝撃的な内容。アメリカや韓国では話題になっているが、日本ではなぜか全く知られていない。核開発を進める独裁国家で実施されている「現代の奴隷制度」の実態。


アメリカは強い日本を望んでいるのか? 弱い日本を望んでいるのか?|山岡鉄秀

アメリカは強い日本を望んでいるのか? 弱い日本を望んでいるのか?|山岡鉄秀

副大統領候補に正式に指名されたJ.D.ヴァンスは共和党大会でのスピーチで「同盟国のタダ乗りは許さない」と宣言した。かつてトランプが日本は日米安保条約にタダ乗りしていると声を荒げたことを彷彿とさせる。明らかにトランプもヴァンスも日米安保条約の本質を理解していない。日米安保条約の目的はジョン・フォスター・ダレスが述べたように、戦後占領下における米軍の駐留と特権を日本独立後も永続化させることにあった――。


習近平「チベット抹殺政策」と失望!岸田総理|石井陽子

習近平「チベット抹殺政策」と失望!岸田総理|石井陽子

すぐ隣の国でこれほどの非道が今もなお行なわれているのに、なぜ日本のメディアは全く報じず、政府・外務省も沈黙を貫くのか。公約を簡単に反故にした岸田総理に問う!


最新の投稿


【今週のサンモニ】反原発メディアが権力の暴走を後押しする|藤原かずえ

【今週のサンモニ】反原発メディアが権力の暴走を後押しする|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。


【読書亡羊】「時代の割を食った世代」の実像とは  近藤絢子『就職氷河期世代』(中公新書)

【読書亡羊】「時代の割を食った世代」の実像とは  近藤絢子『就職氷河期世代』(中公新書)

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


【今週のサンモニ】臆面もなく反トランプ報道を展開|藤原かずえ

【今週のサンモニ】臆面もなく反トランプ報道を展開|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。


トランプ再登板、政府与党がやるべきこと|和田政宗

トランプ再登板、政府与党がやるべきこと|和田政宗

米国大統領選はトランプ氏が圧勝した。米国民は実行力があるのはトランプ氏だと軍配を上げたのである。では、トランプ氏の当選で、我が国はどのような影響を受け、どのような対応を取るべきなのか。


【今週のサンモニ】『サンモニ』は最も化石賞に相応しい|藤原かずえ

【今週のサンモニ】『サンモニ』は最も化石賞に相応しい|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。