中国では死刑になる可能性もある……
広島県呉市のジャパンマリンユナイテッド(JMU)の呉事業所(昭和地区)のドックでは、護衛艦かがの空母改修工事が行われている。これまでヘリ搭載型護衛艦はあったが、戦闘機を搭載できるいわゆる空母は存在しなかった。打撃の要である空母を持つことは海上自衛隊の悲願だった。
この空母改修工事の様子は、YouTube等の動画サイトに数多く投稿され誰でも見ることができる。 自衛隊も宣伝に繋がるのでこういった動画も歓迎しているようだ。
さて、ここで読者の皆さんに質問したい。
護衛艦かがの空母改修工事動画が全世界に公開されていることをどう考えるだろうか?
この件に限らず、陸海空の自衛隊の基地や航空機・潜水艦など様々な動画が撮影され、動画サイトに溢れかえっている。日本では、当たり前のように自衛隊基地を撮影できるが、これは世界から見るとかなり特殊だ。
ここで世界各国の情報保全に対する認識を紹介しておこう。
2015年、中国が空母遼寧を国家機密として建造を始めた。同年、停泊中の空母遼寧の写真撮影をした男を中国は軍事機密漏洩の諜報活動として逮捕拘束した。スパイ容疑は一般の警察(公安)の取り扱いではなく、中国国家安全部が担当するため、取り調べが厳しく拘束環境も非人道的だと指摘されている。
中国は「軍事禁区」や「軍事管理区」と表示された軍事施設は、軍事施設保護法により、許可なく立ち入ったり撮影したりすること等が禁止され、死刑になる可能性もある。
米国では軍事基地の無許可撮影を禁止している。さらに軍事基地の敷地面積は広大で、頻繁にレイアウトを変更し、重要施設の位置すら把握されない対策をとっている。また、台湾も軍事施設写真撮影禁止で、有期懲役の罰則があり、撮影に使用したカメラ等を没収することができる。韓国は広範囲にわたって軍事施設の撮影は禁止されている。
情報の透明性を求められる自衛隊
なぜ、各国ではここまで厳しく撮影や立ち入りを制限するのか。それは、軍事情報漏洩が国家防衛の致命傷になりかねないからだ。
画像情報はたった1枚でも多くの情報を伝える。人物や納入企業、搬出搬入経路の特定や位置情報など様々な情報が全世界に伝わる。それが戦略上の弱点となるかもしれない。諸外国では可能な限り安全保障リスクは排除することが情報保全のスタンダードである。
自衛隊は軍ではなく行政組織であるため、軍事情報であっても情報の透明性を求められる。軍事情報漏洩への警戒よりも、国民からの理解を重視するのも、自衛隊の地位が日本国憲法の中で曖昧なままだからだろう。
日本からみると、世界は軍事情報漏洩に怯え、過剰に情報保全対策をしているように見えるだろう。
では、我が国ではどういったい対策が取られているだろうか。
2016年にドローン禁止法(小型無人機等飛行禁止法違反)が制定され、国の重要な施設等、外国公館等、防衛関係施設等の指定地域での飛行を禁止した。しかし、この法律でも飛行制限区域を飛行したことの立証が難しい。
しかも、抜け道として制限区域外からのドローン望遠撮影であれば、空母改修工事撮影も合法であり、なんの問題もないのだ。昨今のドローンは性能が向上し、遠くからでもある程度鮮明に撮影することができる。今後もその精度は増々向上していくことだろう。
今回、例に挙げた護衛艦かがの改修工事の様子も制限区域外の撮影であり、ドローン禁止法では取り締まられることはない。
自衛隊は、軍事機密に関わる部分はカバーで隠すなどの対処をしているから問題ないという考え方だ。軍事施設を撮影すること自体を違法とする諸外国と比較すれば、認識の違いは明らかだ。