【橋下徹研究⑨】「副市長案件」に潜む2つの巨大な闇|山口敬之【WEB連載第9回】

【橋下徹研究⑨】「副市長案件」に潜む2つの巨大な闇|山口敬之【WEB連載第9回】

橋下徹氏は「副市長案件」「問題ない」「花田らは完全に炎上商法」の立場だが、罵詈雑言のみでこちらの問いかけにはまったく答えていない。咲洲メガソーラーは、外形上は「月額55万円の市有地賃借契約」であり、通常なら「局長案件」だったはずだ。なぜ、「副市長案件」に格上げされたのか。


新しい市長が咲洲や夢洲など大阪湾でのメガソーラー事業について熱く詳細に語っていたのである。

この橋下市長の発言を精査すれば、咲洲の隣の「夢洲メガソーラー」については、大阪市の幹部が橋下市長に詳細に説明していたことがわかる。

これに対して橋下氏も「いったん決まった業者を変えられないのか」とか「地元還元するように考えろ」など、非常に細かい要求をしていた。

それなのに南隣の咲洲メガソーラーについては、田中清剛副市長だけがすべてを決め、橋下氏には一切相談もせず、橋下氏からも何の指示も出なかったというのか。

そもそも、書類上の決裁が副市長だからといって、重要な案件なら市長に「報告」「連絡」「相談」するに決まっている。「決裁が副市長だった」ということを盾に、「橋下徹氏は咲洲メガソーラーについて何も知らず、何も指示を出していない」という証明にはならないのだ。

松井市長・吉村知事の「全ての決裁は田中清剛副市長」という弁明は、「橋下徹氏は何も知らなかった」ということの証明にはまったくなっていない。

もうひとつの大きな疑惑

一方で、大阪市は「咲洲メガソーラーの決裁、すなわち書類上の処理は全て『田中清剛副市長が行った』」と主張している。
私はその説明まで虚偽説明だとは思っていない。

逆に、もし田中副市長が咲洲メガソーラーに関する全ての決裁の責任者にさせられていたとすれば、それこそが深い闇の入り口だと見ている。

橋下徹市長は、2012年8月には咲洲メガソーラーの様々なリスクを熟知しながら事業をゴリ押しし、だからこそ自らの身の安全のために副市長に全てを決裁させたという疑惑である。
 
大阪市の幹部は、事業規模的には「局長案件」という扱いで十分な咲洲メガソーラーの不動産賃借契約を「副市長案件」に格上げした。

その一方で大阪市港湾局と田中副市長は、咲洲メガソーラーに関する強い思い入れについて議会で熱弁した橋下市長には、一切の報告も相談もせず、指示も受けていなかったことにし、決裁も「副市長案件」という体裁を取った。

橋下市長がもし、咲洲メガソーラーについての説明は聞いていたが、決裁は副市長にやらせていたとすれば、そこにどういう意図があったのか。

橋下市長が咲洲や舞洲のメガソーラー事業について議会で熱弁を振るった2012年9月といえば、大阪市港湾局内部で咲洲メガソーラーの計画が具体的に進み入札に向けた準備が急ピッチで進められていた時期だ。

その3か月後には「伸和工業」と「日光エナジー開発」という、太陽光ビジネスの実績がまったくない2社で作る企業連合体だけが応札し、しかも入札の条件である納税証明書を提出できなかった日光エナジー開発の書類不備が見逃され、ついに成約に至るという異常事態が起きた。

大阪市の幹部にとって、本来は入札段階で書類で弾かれるはずの企業と契約を結んでも自分には何のメリットもないどころか、自らが逮捕されることもありうる極めて危険な行為だ。誰の指示でそんな危険な行為に手を染めたのだろうか。

しかも、2013年7月1日までに発電を開始するという契約は無視され、工事すら一向に始まらなかった。ここで、大阪市は伸和工業らとの契約を破棄すべきだったが、この時もやるべきことをやらず契約不履行を看過した。この異常な判断を指示したのは一体誰なのか。

そして、2014年3月16日にようやく行われた着工式に突然登場したのが、この時点では無契約無関係の上海電力だった。大阪市港湾局は入札の意味を完全に無視したこの事態も黙認した。

極めて不透明な入札の果てに実績ゼロの企業体が落札し、工事大幅遅延の末に上海電力が登場するという異常な展開を見せた咲洲メガソーラーのイカサマ性を最初から知り尽くしていたとしたら、自分のハンコは撞きたくないというのが人情だろう。

橋下徹氏や松井一郎氏は「入札など行政手続きには問題はまったくなかった」といつまで言い続けていられるだろうか。

(つづく)

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総理

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