北の対米核攻撃能力がもたらす日本の危機|西岡力

北の対米核攻撃能力がもたらす日本の危機|西岡力

日本では、落下地点が日本に近く危険だったという議論が多いが、今回の試射で一番の焦点は、北朝鮮がICBM弾頭の大気圏再突入技術を獲得したかどうかである。


北朝鮮が3月24日に大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射実験を行った。最高高度などから計算すると、通常軌道で発射すればワシントンやニューヨークのある米本土東海岸まで届く。日本では、落下地点が日本に近く危険だったという議論が多いが、今回の試射で一番の焦点は、北朝鮮がICBM弾頭の大気圏再突入技術を獲得したかどうかである。

焦点は大気圏再突入技術の有無

日本の防衛省が昨年7月に公表した令和3年版防衛白書では、「北朝鮮は、(略)核兵器の小型化・弾頭化を実現し、これを弾道ミサイルに搭載してわが国を攻撃する能力を既に保有している」としていた。ただ、白書は「長射程の弾道ミサイルの実用化のためには、弾頭部の大気圏外からの再突入の際に発生する超高温の熱などから再突入体を防護する技術についてさらなる検証が必要になると考えられる」と述べ、米本土に届くICBMはまだ大気圏再突入技術を獲得していないと見ていた。

その有力な根拠は、2017年11月に試射されたICBM「火星15」の弾頭が大気圏に再突入した際、高熱と空気抵抗により三つに割れてしまったことにあった。

だから、今回の試射で一番注目すべきことは、弾頭の大気圏再突入が成功したかどうかである。関係者によると、少なくとも再突入後に幾つかに割れることはなかった。北朝鮮が米本土核攻撃能力獲得の最後の壁と言うべき再突入技術を獲得したかどうか、当局の判断が待たれるところだ。ただ、北朝鮮の技術が刻一刻進歩していることだけは間違いない。

検討すべき独自の核抑止力

白書は核攻撃の脅威に対して「核抑止力を中心とする米国の拡大抑止」と「わが国自身による対処のための取組」で対応するとしているが、北朝鮮が米本土核攻撃能力を持ってしまうと、米国の抑止力は弱体化する。白書も、そのことを次のように明記している。

「北朝鮮が弾道ミサイルの開発をさらに進展させ、長射程の弾道ミサイルについて再突入技術を獲得するなどした場合は、北朝鮮が米国に対する戦略的抑止力を確保したとの認識を一方的に持つに至る可能性がある。仮に、北朝鮮がそのような抑止力に対する過信・誤認をすれば、北朝鮮による地域における軍事的挑発行為の増加・重大化につながる可能性もあり、わが国としても強く懸念すべき状況となりうる」

いま、北朝鮮は米本土核攻撃能力を獲得したか、その直前まで来ている。米国の中距離核ミサイルの日本国内への配備や我が国独自の核抑止力保持などについて、真剣に検討すべき時が来ていると強調したい。(2022.03.28国家基本問題研究所「今週の直言」より転載)

関連する投稿


プーチンは「内部」から崩れるかもしれない|石井英俊

プーチンは「内部」から崩れるかもしれない|石井英俊

ウクライナ戦争が引き起こす大規模な地殻変動の可能性。報じられない「ロシアの民族問題というマグマ」が一気に吹き出した時、“選挙圧勝”のプーチンはそれを力でねじ伏せることができるだろうか。


ナワリヌイの死、トランプ「謎の投稿」を解読【ほぼトラ通信2】|石井陽子

ナワリヌイの死、トランプ「謎の投稿」を解読【ほぼトラ通信2】|石井陽子

「ナワリヌイはプーチンによって暗殺された」――誰もが即座に思い、世界中で非難の声があがったが、次期米大統領最有力者のあの男は違った。日本では報じられない米大統領選の深層!


「もしトラ」ではなく「トランプ大統領復帰」に備えよ!|和田政宗

「もしトラ」ではなく「トランプ大統領復帰」に備えよ!|和田政宗

トランプ前大統領の〝盟友〟、安倍晋三元総理大臣はもういない。「トランプ大統領復帰」で日本は、東アジアは、ウクライナは、中東は、どうなるのか?


【スクープ!】自衛隊と神戸市が交わした驚きの文書を発見! 自衛隊を縛る「昭和の亡霊」とは……|小笠原理恵

【スクープ!】自衛隊と神戸市が交わした驚きの文書を発見! 自衛隊を縛る「昭和の亡霊」とは……|小笠原理恵

阪神地区で唯一の海上自衛隊の拠点、阪神基地隊。神戸市や阪神沿岸部を守る拠点であり、ミサイル防衛の観点からもなくてはならない基地である。しかし、この阪神基地隊の存在意義を覆すような驚くべき文書が神戸市で見つかった――。


速やかなる憲法改正が必要だ!|和田政宗

速やかなる憲法改正が必要だ!|和田政宗

戦後の日本は現行憲法のおかしな部分を修正せず、憲法解釈を積み重ねて合憲化していくという手法を使ってきた。しかし、これも限界に来ている――。憲法の不備を整え、わが国と国民を憲法によって守らなくてはならない。(サムネイルは首相官邸HPより)


最新の投稿


【今週のサンモニ】岸田総理訪米を巡るアクロバティックな論点逃避|藤原かずえ

【今週のサンモニ】岸田総理訪米を巡るアクロバティックな論点逃避|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。


わが日本保守党|広沢一郎(日本保守党事務局次長)

わが日本保守党|広沢一郎(日本保守党事務局次長)

昨今の政治状況が多くの日本人の心に危機感を抱かせ、「保守」の気持ちが高まっている。いま行動しなければ日本は失われた50年になってしまう。日本を豊かに、強くするため――縁の下の力持ち、日本保守党事務局次長、広沢一郎氏がはじめて綴った秘話。


改正入管法で、不法滞在者を大幅に減らす!|和田政宗

改正入管法で、不法滞在者を大幅に減らす!|和田政宗

参院法務委員会筆頭理事として、改正入管法の早期施行を法務省に働きかけてきた。しかしながら、改正入管法成立前から私に対する事実無根の攻撃が始まった――。


【今週のサンモニ】新生「サンモニ」はやっぱりいつも通り|藤原かずえ

【今週のサンモニ】新生「サンモニ」はやっぱりいつも通り|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。


なべやかん遺産|「終活」

なべやかん遺産|「終活」

芸人にして、日本屈指のコレクターでもある、なべやかん。 そのマニアックなコレクションを紹介する月刊『Hanada』の好評連載「なべやかん遺産」がますますパワーアップして「Hanadaプラス」にお引越し! 今回は「終活」!