9日の韓国大統領選挙は、野党の尹錫悦候補が得票率わずか0.7ポイント差で勝利を収めた。事前の世論調査では尹氏が5~10ポイント優勢だった。予想を覆す僅差は、韓国の国内分裂、政治的内戦の深刻さの表れだ。
私は2005年に『韓国分裂 親北左派vs韓米日同盟派の戦い』という本を書いて韓国内の分裂を指摘した。その私でも、過激な親北左派の与党候補、李在明氏が約半分の韓国国民に支持されたことはやはり驚きだった。尹氏も当選確定直後に「地域、陣営、階層を超えた国民統合を最優先で目指す」と語った。しかし、次期政権が分裂を修復して韓国を正常化させることはとても困難だ。
かつては左派陣営のヒーロー
そもそも尹氏は、朴槿恵前政権から文在寅政権の前半にかけて、国内分裂の中で親北左派側の検事だった。尹氏自身は文政権に大挙して入った職業革命家出身者ではないが、1980年代に大学に通った者に共通する「反日反韓史観」を身につけている。だから、韓国正常化のためには親北左派と戦わなければならないという問題意識を持っていない。
尹氏が最初に脚光を浴びたのは、朴槿恵政権初期、国家情報院がネットへの書き込みで大統領選挙に介入したとされた事件を捜査した時だ。尹氏は政権から捜査妨害を受けたと国会で証言して、左派のヒーローになった。しかし、北朝鮮が組織的にネットを使い韓国の選挙に介入していて、国情院はその対策として書き込みをしただけだった。
尹氏は朴槿恵大統領の弾劾、逮捕、懲役22年の実刑判決に至るプロセスを検察幹部として指揮し、文政権に重用された。朴槿恵政権で北朝鮮と戦ってきた国情院長、国防相、軍幹部らを次々と無理な捜査で逮捕していった張本人だ。その時まで尹氏は親北左派側だった。
2019年夏に文政権が検察の権限を大幅に縮小する検察改革を断行しようとするや、尹氏は検事総長として、改革の責任者だった曺国法相の不正捜査を本格化させた。それと同時に、文政権の地方選挙への不正介入や、原発稼働停止における権力濫用などの捜査を進めて政権と激しく対立し、今度は保守派のヒーローとなった。その延長線上で、野党大統領候補になった。尹氏は公約に韓米日安保協力の強化を掲げたが、そのために国内の各界に布陣する親北左派と戦う覚悟を持っていない。