韓国大統領選挙は3月9日に投票日を迎える。2月13~14日に立候補届け出があり、15日から正式に選挙戦が始まった。与党「共に民主党」の李在明・前京畿道知事と第1野党「国民の力」の尹錫悦・前検事総長が大接戦を展開しており、選挙結果は予断を許さない。
野党一本化提案の衝撃
ここへ来て選挙戦に二つの変数が生まれた。第1は、尹候補が、当選したら文在寅政権の「積弊捜査」をすると言い切ったことだ。これに対して文大統領は、政治報復だとして謝罪を求める談話を出した。李陣営は、退任直後に検察の捜査で追い詰められて自殺した盧武鉉元大統領の事例を持ち出して、尹氏が文大統領を「第2の盧武鉉」にしようとしていると訴えた。文大統領の熱烈な支持者で李氏に距離を置く者に結束を呼び掛けているのだ。
この攻防の直後の韓国社会世論研究所による調査では、李氏の支持率が40.4%、尹氏は43.5%となり、尹氏のリードが前週の6.2ポイントから3.1ポイントに縮まった。中道野党「国民の党」の安哲秀氏は7.8%、極左野党「正義党」の沈相奵氏は3.5%だった。
第2の、そして最大の変数が野党候補一本化の成り行きだ。支持率3位の安氏が尹氏と政策協定や連立政府構想などで合意して立候補を取り下げるかどうかが焦点だ。それが実現すれば尹氏の勝利は固いとみられている。
13日に立候補届け出を済ませた後、安氏が電撃的に世論調査による尹氏との候補一本化を提案した。しかし尹氏側は、一本化提案は評価するものの、世論調査では李氏支持者が意図的に競争力の弱い安氏を支持する危険性が高いとして、提案をいったん拒否した。水面下で激しい駆け引きと交渉が行われているが、一本化が実現するかどうか不透明だ。
尹氏当選なら左派の抵抗激化へ
李在明政権が誕生すれば、日韓関係の一層の悪化はもちろんのこと、米韓同盟の弱体化が心配される。李氏は反日・離米・親中・従北だからだ。韓国が米韓同盟から離れて中国と北朝鮮の側につくなら、日本にとって最悪の地政学的危機になる。韓国軍60万が対馬の目の前に敵軍として忽然と現れるのだ。この危険な李氏を韓国人の約4割が支持している。
一方、尹錫悦政権になれば、悪い日韓関係は少し改善されるか今のまま継続となるが、米韓同盟は修復され、文政権の親中・従北政策はかなりの部分が廃棄されて、韓国は中国と北朝鮮という二つの全体主義国家に対抗する立場に戻ろうとするだろう。ただし、国会のほぼ3分の2を占める左派野党だけでなく、各界各層に広がる左派勢力が尹政権に激しく抵抗するので、朴槿恵前政権のように任期途中で倒されてしまう危険がある。
つまり、大統領選挙の結果がどうなっても、残念ながら約4割の李在明支持勢力によって、韓国はよりひどい状況に陥る危険性が大きいと私は見ている。(2022.02.15国家基本問題研究所「今週の直言」より転載)