米保守系誌ワシントン・エグザミナーのトム・ローガン氏は「ドイツはもはや信頼できる同盟国ではなくなった」と突き放し、リベラル系のニューヨーク・タイムズ紙のコラムニスト、ロス・ドゥザット氏は「ドイツは一再ならずロシアの事実上の同盟国のように行動してきた」と、北大西洋条約機構(NATO)の裏切り者であるかのような表現をしている。2月7日にドイツのショルツ首相はホワイトハウスでバイデン米大統領と会談するが、ウクライナ問題で意見調整がうまくいくとは考えられない。
ガスパイプライン停止にためらい
ウクライナ周辺に10万以上の大軍を集結したロシアに対して、NATOは戦後最大の緊張感に包まれ、加盟各国が武器、兵員の準備に大わらわだというのに、ドイツはウクライナ向けの武器供給を拒否した。加えて、エストニアが旧東独の古い武器をウクライナに送ろうとしたら、それに待ったをかけた。代わりにドイツが提供を申し出たのは、野戦病院の設備と要員の訓練、そして防御用ヘルメット5000個だ。対露抑止力の強化にヘルメットはどういう意味があるのか。
独露間には、このほど完成した「ノルドストリーム2」というバルト海の海底を通してロシアから天然ガスを持ってくるパイプラインがある。欧州のエネルギー需要のロシア依存度を増すこのパイプラインに対しては、米国が安全保障上の見地から反対を唱えてきたが、その危険が現実のものになっている。米国やNATO諸国がロシアのウクライナ侵攻に制裁措置を打ち出すときに、ノルドストリーム2の運用停止は一つの重要な手段だが、ショルツ首相はまだ首を縦に振らない。
パイプライン計画を推進したドイツのメルケル前首相が、他方で中国との間で特別な経済関係を結んだことも無視できない。ドイツ企業二千数百社が中国に進出し、工作機械その他の技術がどれほど流出したか。ドイツが中国のウイグル人抑圧にようやく注目するようになったのは、メルケル政権末期だった。
メルケル氏の前任者のシュレーダー元首相は、ノルドストリーム2の事業主体である「ノルドストリームAG」の取締役を務めていた。中国絡みでシュレーダー氏は2001年の世界貿易機関(WTO)加盟に尽力し、1989年の天安門事件で中国に科した制裁の解除を欧州連合(EU)に働きかけたことはよく知られている。
日独関係史を直視せよ
第2次世界大戦で同盟関係を結び、同じ敗戦国という境遇にあったせいか、日本にはドイツに対する親近感のようなものが存在するが、国家と国家の関係は冷静に観察する必要がある。遠く遡れば、日清戦争の直後にドイツ、フランス、ロシアの3国が日本の遼東半島領有に反対する「三国干渉」を行い、日本は「臥薪嘗胆」の暗い時代を経験した。第1次大戦で日本はドイツに宣戦布告をした。第2次大戦のきっかけとなった独ソ不可侵条約の締結はヒトラーとスターリンが手を結んだ衝撃的な事件で、これによって日独防共協定が空文化され、当時の平沼騏一郎内閣は総辞職した。ドイツの動きは要注意だ。(2022.01.31国家基本問題研究所「今週の直言」より転載)