もうひとりの河野洋平 “強制労働”を認めた日本のユネスコ大使|山岡鉄秀

もうひとりの河野洋平 “強制労働”を認めた日本のユネスコ大使|山岡鉄秀

1月31日、自民党役員会で岸田文雄総理は「佐渡金山」を世界文化遺産の候補として2月1日にユネスコに推薦する方針を改めて説明した。「最後は俺が決める」(産経新聞)と豪語した岸田総理だが、推薦論と見送り論の間で、右往左往したことも事実だろう。韓国との歴史戦は、佐渡金山だけではない。かつて韓国の主張を丸吞みし、“強制労働”を認めたことがあった。その時の外相は岸田氏である……。2021年10月号の記事を特別公開!(肩書等は当時のママ)


佐藤ユネスコ大使が韓国の主張を丸吞み!

私はたまらず、この馬鹿げた妥協と自滅を糾弾する論説を月刊『正論』に寄稿した。しかし、実は日本政府が示した自滅的な妥協である「forced to work」は、もっと長い文の一部でしかなかったのである。

協力し合うという合意を突然韓国が反故にした際、岸田文雄外相、杉山晋輔政務担当外務審議官、新美潤国際文化交流審議官らと連携をとっていた佐藤地(くに)ユネスコ大使は、
「Koreans and others who were brought against their will and forced to work under harsh conditions」(「多くの朝鮮半島の出身者などがその意思に反して連れて来られ、厳しい環境の下で働かされた」)という表現を提案し、相手の主張を丸吞みにして譲歩していたのだ。

その結果、「明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業」の世界遺産への登録が全会一致で決定された。しかし、それは時限爆弾を埋め込むに等しい行為だったのである。

2020年に産業遺産情報センター(加藤康子センター長)が開所され、軍艦島にも大きなスペースが割かれている。当時は日本人も韓国人も分け隔てなく仲良く働き、暮らしていたことが、豊富な資料と元島民の証言で示されている。

しかし当然ながら、韓国政府と日韓の左派活動家団体などが反発し、ユネスコに言いつけた。それが、冒頭で紹介したユネスコの決議に帰結するのである。

この日本を糾弾するユネスコの姿勢に対して、茂木外相は7月13日、「わが国はこれまでの委員会の決議、勧告を真摯に受け止め、約束した措置を含めて誠実に履行してきている」 「わが国のこうした立場を踏まえ、適切に対応していきたい」と述べた。

完全屈服外交で国家の名誉を売った

また、加藤官房長官は「明治日本の産業革命遺産について、わが国はこれまでの世界遺産委員会における決議・勧告を真摯に受け止め、政府が約束した措置を含めて誠実に履行してきた」と述べ、やはり「適切に対応していきたい」と述べた。

はたして、この2人が述べる「適切な対応」とは何のことなのか。佐藤ユネスコ大使が埋め込んだ時限爆弾をどう処理するつもりなのか。常に本質的な議論を避け、その場しのぎの対応をしてきた日本の外交。ここにも大きな汚点があった。

韓国は早速、ユネスコの決議を盾にして、「日本が約束を破った」と大々的にネガティブキャンペーンを展開してきている。佐藤ユネスコ大使らが行った完全屈服外交は国家の名誉を売る行為であり、彼女こそもうひとりの河野洋平だと言って過言ではないだろう。

もちろん、佐藤ユネスコ大使と協業する立場にあった当時の新美潤国際文化交流審議官も同罪であるし、このようなその場しのぎの亡国的対応を許した当時の岸田文雄外相の責任も問われなくてはならない。

また、当時の駐大韓民国特命全権大使は別所浩郎氏だが、この世界遺産登録騒ぎがあった翌年の2016年には韓国政府から日韓両国の友好親善に貢献した功績を称えられ、修交勲章光化章を授与されている。全面降伏外交への功労ではないかと勘繰りたくもなる。別所氏は現在、侍従長の職にある。

彼らの責任は追及されなくてはならない。そして、この理不尽な状況下に孤軍奮闘する元島民の方々と産業遺産情報センターを放置することがあってはならない。

(初出:月刊『Hanada』2021年10月号)

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