昨年12月28日、文化庁文化審議会は新潟県の佐渡金山を国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界遺産登録推薦候補に選定した。しかし文化庁は、選定は推薦の決定ではなく、今後、政府内で総合的に検討すると注釈を付けた。2月1日がユネスコへの推薦書提出の期限だ。ところが、1月も半ばを過ぎたのに、まだ推薦が決まらない異常事態が続いている。
なぜ、このような事態が起きたのか。政府は理由を明言しないが、韓国が官民挙げて反対の声を上げていることが理由と思われる。
推薦候補選定の日に、韓国外務省は「強制労働被害の現場である佐渡鉱山の世界遺産登録を目指すことは非常に嘆かわしく、これを直ちに撤回するよう求める」とのコメントを発表した。また、韓国マスコミも連日、「佐渡金山は朝鮮人強制労働の現場」だとするキャンペーンを行っている。
「強制労働」ではない
韓国の政府とマスコミの主張は歴史的事実に反している。昨年4月27日、菅義偉政権(当時)は朝鮮人労働者の戦時動員は「強制労働」ではないという次の閣議決定を行っている。
「『募集』、『官斡旋』及び『徴用』による労務については、いずれも強制労働に関する条約上の『強制労働』には該当していないものと考えており、これらを『強制労働』と表現することは、適切ではない」
戦前に日本も加入していた「強制労働に関する条約(Forced Labour Convention)」では、戦時労働動員は国際法違反の「強制労働(forced labour)」に含まれないと規定していた。
2015年、長崎県の端島炭鉱を含む明治の産業革命遺産が世界遺産に登録された時、日本政府は「1940 年代にいくつかの施設において、その意思に反して連れて来られ、厳しい環境の下で働かされた多くの朝鮮半島出身者等がいたこと、また、第二次世界大戦中に日本政府としても徴用政策を実施していたことについて理解できるような措置を講じる所存である」との文書を配布したが、この「働かされた」の英文が「forced to work」だった。1944年9月からの徴用は法的強制力があったから「意思に反して」はいた。しかし、それは日本人に適用された徴兵・徴用でも同じだ。そのことだけを日本は認めたのだ。国際法違反の「強制労働(forced labour)」だったとは認めていない。
歴史論争から逃げるな
日本政府、特に外務省の問題は、日本は朝鮮人に強制労働をさせていないという、歴史的事実に踏み込んだ国際広報をしてこなかったことだ。
佐渡金山の登録を推進する新潟県や佐渡市も、2007年の最初の提案書では明治以降の佐渡金山施設を登録対象に含めていたが、今回は江戸時代の施設に限定して、歴史認識論争から逃げた。逃げても必ず韓国は「強制労働」とウソの非難をしてくるのだから、正面から反論し、国際社会に真実を伝える努力をするしかないのだ。( 2022.01.17国家基本問題研究所「今週の直言」より転載)