米ミサイルの日本配備へ活発な議論を期待する|太田文雄

米ミサイルの日本配備へ活発な議論を期待する|太田文雄

米国は対中抑止力として中距離戦力を配備したいと考えているが、それを受け入れてくれる国があるかが問題である。北東アジアから東南アジアにかけての配備先候補は、日本しかない。


17日に米議会の諮問機関「米中経済安全保障調査委員会」の年次報告書が公表された。その中で、日本にとって極めて重要な記述の一つは「パートナー国が米国の中距離戦力の受け入れに乗り気であることを調べるための対話」を提唱しているくだりである。台湾の安全確保のため、米軍がインド太平洋に数多くの対艦巡航ミサイルと対艦弾道ミサイルを展開するための予算を付けることも議会に提言している。

こうした提言を踏まえて、アジアにおける米国の最も重要な同盟国である日本は、米国のミサイルの受け入れへ向けて、国内で活発な議論を展開すべきであろう。

最有力受け入れ先は日本

1987年に米国と当時のソ連との間で締結された中距離核戦力(INF)全廃条約に基づいて、米国は射程500〜5500kmの地上発射型ミサイルを全廃した。この隙を突いて中国は、台湾や我が国を射程に収める地上発射型の中距離弾道ミサイル(射程3000〜5500km)や準中距離弾道ミサイル(同1000~3000キロ)を着々と配備し、今月公表された中国の軍事力に関する米国防総省の年次報告書によれば、合計で約900発を保有している。これに対して日米の配備数は現在ゼロである。こうした状況からトランプ政権下で、米国はINF条約から離脱した。

米国は対中抑止力として中距離戦力を配備したいと考えているが、それを受け入れてくれる国があるかが問題である。韓国は、2014年に防御兵器である終末高高度防衛ミサイル(THAAD)の配備を巡って中国から、韓国品不買運動や観光客激減等の経済的な嫌がらせを受けた苦い経験があり、中距離戦力の配備受け入れは望み薄であろう。台湾も、ただでさえ中国からの軍事的圧力に晒されている。東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国も、常に中国の顔色を伺っている国が多いので、あまり期待できない。従って北東アジアから東南アジアにかけての配備先候補は、日本しかない。

消極的な岸田首相

先の自民党総裁選で、米国の中距離戦力の受け入れについて高市早苗候補が「こちらからお願いしてでも導入したい」と積極的だったのに対し、岸田文雄氏(現首相)を含め他の3候補は消極的であった。

しかし、INF条約締結に至った過程をみると、旧ソ連の中距離核戦力であるSS20の欧州正面への配備に対して、旧西独のシュミット首相が米国の中距離弾道ミサイルであるパーシングIIとトマホーク巡航ミサイルの配備受け入れを決断したことが最終的な全廃につながった。

中国に対しても、日本が受け入れ国として中距離戦力を配備することによって、初めて軍縮交渉が可能になるというのが現実の姿であろう。受け入れをめぐって活発な議論が国民の間に巻き起こることを期待したい。( 2021.11.22国家基本問題研究所「今週の直言」より転載)

関連する投稿


高市早苗 戦闘宣言|小川榮太郎【2025年11月号】

高市早苗 戦闘宣言|小川榮太郎【2025年11月号】

月刊Hanada2025年11月号に掲載の『高市早苗 戦闘宣言|小川榮太郎【2025年11月号】』の内容をAIを使って要約・紹介。


チャーリー・カーク暗殺と左翼の正体|掛谷英紀

チャーリー・カーク暗殺と左翼の正体|掛谷英紀

日本のメディアは「チャーリー・カーク」を正しく伝えていない。カーク暗殺のあと、左翼たちの正体が露わになる事態が相次いでいるが、それも日本では全く報じられない。「米国の分断」との安易な解釈では絶対にわからない「チャーリー・カーク」現象の本質。


中国を利するだけだ!「習近平失脚説」詐術の構造|遠藤誉【2025年10月号】

中国を利するだけだ!「習近平失脚説」詐術の構造|遠藤誉【2025年10月号】

月刊Hanada2025年10月号に掲載の『中国を利するだけだ!「習近平失脚説」詐術の構造|遠藤誉【2025年10月号】』の内容をAIを使って要約・紹介。


人権弾圧国家・中国との「100年間の独立闘争」|石井英俊

人権弾圧国家・中国との「100年間の独立闘争」|石井英俊

人権弾圧国家・中国と対峙し独立を勝ち取る戦いを行っている南モンゴル。100年におよぶ死闘から日本人が得るべき教訓とは何か。そして今年10月、日本で内モンゴル人民党100周年記念集会が開催される。


「習近平失脚説」裏付ける二つの兆候|長谷川幸洋【2025年9月号】

「習近平失脚説」裏付ける二つの兆候|長谷川幸洋【2025年9月号】

月刊Hanada2025年9月号に掲載の『「習近平失脚説」裏付ける二つの兆候|長谷川幸洋【2025年9月号】』の内容をAIを使って要約・紹介。


最新の投稿


「信じるか、信じないかはあなた次第」コナン・ドイルとトーマス・エジソンがはまった“見えない世界”|松崎いたる

「信じるか、信じないかはあなた次第」コナン・ドイルとトーマス・エジソンがはまった“見えない世界”|松崎いたる

信じたいものを信じる―ーそれが人間の根本的心理。オカルトにはまった偉人たち。コナン・ドイルとトーマス・エジソンが追い求めた「妖精」と「心霊」。私たちは、ドイルやエジソンの試行錯誤を「馬鹿げている」などと笑うことは決してできない。


抗日戦争勝利記念式典は「世紀の大噓」|古森義久【2025年11月号】

抗日戦争勝利記念式典は「世紀の大噓」|古森義久【2025年11月号】

月刊Hanada2025年11月号に掲載の『抗日戦争勝利記念式典は「世紀の大噓」|古森義久【2025年11月号】』の内容をAIを使って要約・紹介。


【独占スクープ!】元局長の公用PC文書入手!斎藤兵庫県知事「無罪」の決定的証拠|新田哲史【2025年11月号】

【独占スクープ!】元局長の公用PC文書入手!斎藤兵庫県知事「無罪」の決定的証拠|新田哲史【2025年11月号】

月刊Hanada2025年11月号に掲載の『【独占スクープ!】元局長の公用PC文書入手!斎藤兵庫県知事「無罪」の決定的証拠|新田哲史【2025年11月号】』の内容をAIを使って要約・紹介。


【編集長インタビュー】新総裁には「決める政治」を|世耕弘成【2025年11月号】

【編集長インタビュー】新総裁には「決める政治」を|世耕弘成【2025年11月号】

月刊Hanada2025年11月号に掲載の『【編集長インタビュー】新総裁には「決める政治」を|世耕弘成【2025年11月号】』の内容をAIを使って要約・紹介。


【今週のサンモニ】メディアの大衆操作は現在も継続中|藤原かずえ

【今週のサンモニ】メディアの大衆操作は現在も継続中|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。