憲法改正にとってこれほどの好機はめったに訪れるものではない。「改憲勢力」とされる自民党、公明党、日本維新の会、国民民主党の4党が国会による改正発議に必要な3分の2の議席を衆参両院で確保した。国民投票の利便性を高める改正国民投票法は去る6月、提出から3年の月日を経て、ともかく成立した。
岸田文雄首相をはじめ、細田博之衆院議長、自民党の茂木敏充幹事長、維新の馬場伸幸幹事長、国民民主党の榛葉賀津也幹事長らが改憲論議の促進に意欲を示した。立憲民主、共産両党を除いた与野党で改憲を口にしない政党は事実上なくなった。とりわけ維新の馬場幹事長が記者団に「国会の憲法審査会は衆参ともに全く機能していない」とズバリ発言したことに同感する国民は少なくなかったのではないか。
今も残る占領政策の束縛
安倍晋三政権時代に自民、公明の連立与党が憲法改正を発議できる3分の2の議席を持ちながら、何故改憲の機運は高まらなかったのか。公明党が消極的だったのと、改憲へ向けて足並みをそろえようとしない自民党の幹部がいたからだ。
個人的経験を一般化するのは妥当でないが、苦い思いを噛みしめたことがある。改憲の陳情を受けて快諾したある自民党幹部は、その足で別の私的会合に出席し、「一部の熱心な団体や自衛隊OBの間だけで議論が出ている今の状況で、改憲に手を着けるのは難しい」と語っていた。機が熟するまでは具体的動きをしても無駄だということだろう。その場の空気を読むことに専念してきた政治家によくある例だ。
日本に住んでいる米国人の少壮学者が国家基本問題研究所の『国基研紀要』で憤慨している。領土を侵食されて何もできず、拉致被害者を取り戻せず、首相が靖国神社を参拝できず、東京裁判史観から抜け出せないなど、米国の古い占領政策に縛られたままの日本は果たして主権国家なのか、と。
政治家任せはいけない
憲法改正は一般の法律制定と異なり、現実に即した効果がすぐに現れるものではない。占領政策という汚辱に満ちた縛りに対する「NO」の宣言だ。緊急事態に際しては一人前の国家として立ち上がり、国家のバックボーンである軍隊は保有する、という国際社会に対する信号である。日本を脅かす近隣諸国に対しては最大の抑止力になるだろう。米国に対しては同盟国としての立場を確立する旨の通知だ。
国民全体が議論をするまで待とうなどとの態度は、結局何もしない口実にすぎないと思う。気がついた時には改憲の環境は消えているかもしれない。不誠実な政治家に国の運命を託してはいけない。改憲をわれわれ国民の手で成し遂げる時機が到来した。(2021.11.15国家基本問題研究所「今週の直言」より転載)