自衛隊は便利屋でいいのか|岩田清文

自衛隊は便利屋でいいのか|岩田清文

新型コロナウイルスワクチンの大規模接種センターは新たな延長期間に入り、対象年齢もが引き下げられ16歳と17歳への接種が始まった。自衛隊が運営しているだけに、接種会場はシステマティックで、見事な運営がされているという。だが、その一方で「近頃、何でもかんでも自衛隊、これでいいのか?」という危惧の声も聞かれる。自衛隊元最高幹部の問題提起!(初出:月刊『Hanada』2021年9月号)


医師会のあり方を見直せ

一つ目の法律検討において参考になるのが、「災害対策基本法」や「有事関連法制」である。災害対策は基本的に自治体の役割であるが、大規模なものや原子力災害を含めて「国が直轄」して対応する法体系ができている。

有事についても、もちろん「国の責務」であり、国民保護や医療従事者への従事命令もでき、自治体が国の方針に従って強制力を発揮できる仕組みになっているし、平時の各種法令の特例措置もとれるようになっている。感染症に関しても、新型コロナ以上の重い感染症は、国の責務としてあらゆる措置をとる、と法律として定めておくべきである。

二つ目の組織や枠組みの検討においては災害対応が参考になる。発生周期が百年以内と短く、発生確率が50年以内90%と言われる南海トラフ地震対応においては、政府は地震防災対策推進基本計画を策定し準備を整えている。

たとえば被害見積もりに基づき、国、地方公共団体、地域住民の役割、いわゆる自助・共助・公助を定め、それぞれが連携して準備すべき事項を明確にしている。

さらに、指定行政機関および指定公共機関、並びに関係都府県・市町村地方防災会議がそれぞれの計画において推進すべき事項を具体的に示し、関係施設管理者に対しても対策を講じるよう明示している。

関係施設管理者とは、病院、劇場、百貨店や鉄道事業者、学校、社会福祉施設などであり、今回の新型コロナ対応においても規制対象となった重要な施設である。

これに倣い、感染症対策においても、将来的に国としての対策基本計画を策定し、国、自治体、公共機関、特に医療関係機関との連携のあり方を示すべきだ。

その際、国公立医療機関、民間大規模医療機関、クリニック等の役割を再検討する必要がある。併せて、医師会との連携のあり方の再検討も重要だろう。

知人の開業医に話を聞いたところ、開業医と関係病院長で構成された医師会の役割を、診療報酬費を下げさせないための圧力団体的な性格から脱皮させる必要があると語った。

たとえば国家的医療危機の状況においては、感染症等に対して知見・経験のない開業医の不安感を払拭するとともに、中規模・大規模病院と連携して医療行為が地域全体で継続できるよう緊急の教育システムや連携体制の構築をリードしていくべきだと指摘。

彼は自ら貢献したいとの意欲を示したものの、アナフィラキシーショック対応やワクチン接種にかかわるスタッフおよび待機場所の確保も考えると、一人の開業医では対応が難しい。ただ今回、時間こそ要したが、自助努力で連携体制を構築し、現在ではワクチン接種の体制を作り上げることができた。

こういった連携体制の構築や、それによる損失補までを総合的に検討してこそ医師会ではないのか、と熱く語ってくれた。

今回の危機は国民の危機であると同時に、医師会のあり方を見直す好機と捉えるべきではないだろうか。

コロナ収束に伴い、このような議論が深まることを期待したい。

自衛隊、現場部隊の悩み

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話を自衛隊に戻そう。

今回、自衛隊が接種業務を担任した背景には、感染拡大を防止する切り札をワクチン接種と捉え、その打ち手が不足する状況を打開したいとの思いがあったようだ。接種規模の拡大に貢献できる要員が速やかに確保できない国難の状況において、自衛隊が寄与するのは当然である。

また、自衛隊まで動員しているという姿勢が、何とか国民の命を救いたいという政府の強い思いとして伝われば、心理的な効果も高いだろう。今回の自衛隊による接種会場開設・運営は、そのような意味でも意義があるものと思う。

一方で、自衛隊による様々な支援活動が、国防という本来任務遂行に及ぼす影響を危惧する声も聞こえてくる。

本稿を執筆しているいま現在も、熱海市における災害派遣が行われ、懸命の救助活動が続けられている。このような国民の生命にかかわる緊急を要する要請で、警察・消防のみでは実施できない状況では当然、出動すべきであるが、必ずしもそうとは言えない派遣要請に現場部隊が頭を痛めているのも実態だ。

たとえば、豚コレラや鳥インフルエンザによる殺処分等支援である。これも緊急的な対応が必要なため、速やかに人員を投入できる陸上自衛隊に頼るのは理解できるが、毎年頻繁に発生し、その都度出動していたのでは、本来任務遂行のための訓練すらできなくなる。

豚コレラの場合、影響の大きかった令和元年度が陸自全体で11回出動、一回平均117時間(延べ54日間、約1万1000名)、また令和2年度の鳥インフルエンザ対応は26回、一回平均74時間(延べ81日間、約3万名)。その影響は大きい。

東日本大震災において、陸自は約3カ月間にわたり約7万人を投入した。筆者の記憶では、この年、陸自全体で純粋な訓練に充当できたのは840時間程度であった。

豚コレラも含め、最近では様々な支援活動の影響で、それ以下の時間しか訓練に充当できていないと聞いており、いざという時に国防の任を全うできるのか心配している。

部隊では毎年、春頃から逐次訓練を積み上げ、小部隊から大部隊へとレベルを上げていく、この積み上げにより、班長、小隊長、中隊長、大隊長、連隊長等およびそれぞれの指揮官を支える幕僚を含め、実際の防衛行動において確実に任務を完遂できる人材を育てている。

近年では、戦争領域や戦争形態の大きな変化によりやるべきことが増えており、ただでさえ時間が足りない悩みがある。

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