中国の韓国傾斜に不愉快な北朝鮮
このところ中国の韓国傾斜が目立つ。
北朝鮮に対しては中朝国交70周年の式典を行わず、対朝食糧支援も回復していないのに、王毅中国外相は韓国を訪問した。北朝鮮への仁義を無視したのだ。
王毅外相は米国の「中国包囲網」を打破するために訪韓し、韓国はその機会を利用した。SLBM(潜水艦発射ミサイル)の発射実験を行い、中国にSLBM保有を認めさせたのだ。韓国はすでに「軽空母保有」「原子力潜水艦建設」を報道している。
これに反発した北朝鮮は、文在寅・王毅会談の直後に時間を合わせ、新型の短距離ミサイルを発射した。中国に対してこんな失礼な行為はない。9月29日には「極超音速ミサイル」実験も行った。
王毅訪韓の成果はすぐに現れ、韓国の鄭義溶外相は9月23日にニューヨークでの米外交評議会で、「米韓豪日の反中ブロック」を否定、「中国は強圧的でない」と述べた。そのため「中国の代理人」と批判された。
さらに文大統領は、王毅外相との会談で自身の中国訪問と中韓首脳会談、北京冬季五輪への南北統一チームでの参加を話し合った。9月23日の国連総会演説では「朝鮮戦争終戦宣言」も提案した。
北朝鮮外務次官は24日に、提案は「時期尚早」と否定的な声明を出した。
ところがその7時間後に金総書記の実妹・与正氏が「興味深い提案」と前向きの談話を出し、翌25日には南北首脳会談にも言及した。
なぜ与正氏は内容の違う声明を2日連続で出したのか。
まず、与正氏は対南政策の責任者である。それなのに外務省が自分を無視して声明を出したのは越権行為だとした。「与正談話」は「興味深い提案で良い発想」と正反対の表現だったところに、与正氏の感情が読み取れる。一方の外務省は国連は自分たちの管轄だと抗弁した。
すると翌25日に、今度は与正氏はこれを修正する談話を再び出した。
前日の談話は最初に「文在寅大統領は第76回国連総会で終戦宣言の問題を再び提案した」と書き出していた。北朝鮮は大韓民国の存在を公式には否定しているから、「文在寅大統領」という言葉では問題が生じる。そのためか2回目は、「終戦宣言」の言葉と「文在寅大統領」の表現は使われず、在韓米軍の存在と米韓合同軍事演習を強く非難し、その撤退と演習中止を求めたものになった。
なぜ「文在寅大統領」だけでなく、「終戦宣言」の言葉も消えたのか。
実は「終戦宣言」は軍部の権限だ。つまり与正氏の言及は権限逸脱となる。与正談話は「指導者の委任を受けた」との表現もなかったため、軍部が反発し、高官たちも批判したのだ。
与正氏は2回目の談話で、米韓の対北敵視政策と米韓軍事演習などの非難を繰り返しながらも、南北首脳会談と自らが爆破を命じた南北共同連絡事務所の再建の早期実現への期待を表明した。
ところが最後に「これはどこまでも個人的な見解だ」と付け加えている。明らかに、自分の最初の談話にケチをつけた軍部首脳や党高官たちへの嫌がらせだ。なんとも人間的だが、やや「若いな」と思わせる。
北朝鮮のしたたかな計算と戦略
一方、北朝鮮の相次ぐミサイル発射に、韓国政府は「遺憾」と反応しただけで、「国連安保理制裁違反」と非難しなかった。国連安保理も非難決議を採択できなかった。これは「南北対話再開」を強調した中国の立場と一致する。
米国は「終戦宣言支持」は表明せず、「国連安保理決議違反」を指摘しながらも「南北対話再開」を求めた。
そもそも米国は「終戦宣言」の権限は韓国にはない、との立場だから支持できないのだ。韓国は朝鮮戦争の休戦協定にも調印していないからだ。
それなのに韓国が「終戦宣言」を提案するのは、在韓米軍撤退を求めるためだ、と米国は受け止めている。終戦宣言の次には平和協定が問題になり、そこでは在韓米軍撤退が要求される。だから簡単には「支持」できないのだ。
一方北朝鮮は、米中の「南北対話再開」要求に応じる姿勢を示すために「終戦宣言は良い発想」と述べたが、その裏には「在韓米軍撤退」の要求が隠されている。
さらに、相次ぐミサイル発射への非難を避けるために、南北首脳会談と南北共同連絡事務所再建設の可能性に言及したのだ。したたかに計算された、韓国と米中双方を混乱させる戦略だ。
金総書記は、9月29日の最高人民会議演説で「南北通信線」の再開を明言し、米中の「南北対話再開要請」に応え、米朝交渉への意欲を示した。
労働新聞は9月30日、金与正氏が国務委員に選出されたと報じた。国務委員会は政府の最高政策決定機関で、金与正氏は「ナンバー2」の実力者としての地位を誇示した。
ところが労働党での地位は政治局員候補から中央委員に降格されたままだから、なおも抵抗勢力がいるのだろう。
北朝鮮の不安定はなお続く。