中国経済「死に至る病」(上)|石平

中国経済「死に至る病」(上)|石平

中国経済は本当にV字回復しているのか?経済成長の内実を示すいくつかの数字を詳細に分析することで判明した中国経済の実像と不治の病。


国民全体にお金が行き渡っていない

これほどの消費不足をもたらしている原因は何か。その一つはやはり、社会保障システムの不備である。都市部の貧困層や農村地域では、年金と医療保険に加入していない人々が大勢おり、そうした人たちは当然、お金が多少あってもあまり消費をしない。いざという時に備えて貯蓄に励む。だから中国では、消費率の低さとは逆に貯蓄率が高いのである。  

さらに消費の足を引っ張る一番大きな原因は、深刻な貧富の格差である。都市部と農村部の格差、沿岸地域と内陸部の格差、同じ地域における階層的格差など、「社会主義国家」中国の経済格差の深刻さは、資本主義国家の日本やアメリカの比ではない。  

中国国内でもたびたび引用される数字の一つに、総人口のわずか5%の富裕層で民間の富の70%が占められているということがある。もちろん、5%といっても人口数で言えば7000万人に上る。だからこそ、コロナ禍の前に大勢の中国人が日本にきて「爆買い」をしたのだが、問題は、5%が大金持ちになっている引き換えに、95%の国民には民間の富の30%しか残されていないという現実だ。国民全体にお金が行き渡っていないことを意味する。だからこそ、中国の個人消費は常に四割未満の低い水準にある。

他力本願の対外依存型経済

では、消費以外の6割以上の中国経済はどうなっているのか。そのうち一つは輸出である。中国国民が消費しない(できない)なら、外国市場向けに安価な中国製品を売り付けて外国人の財布を狙う。だから日本やアメリカのスーパーマーケットには中国産の野菜や中国製の衣料品があふれているわけだが、中国経済の多くの部分が実は、アメリカ人や日本人の消費で成り立っているのである。  

つまり、中国経済はまさに他力本願の対外依存型経済だと言える。日本やアメリカが中国経済に依存している以上に、彼らは我々に依存しているのである(だから中国は本来、我々に対して偉そうなことを言えない立場である)。  

輸出と並んで中国経済を支えるもう一つの大きな分野は、投資部門すなわちインフラ投資と前述の不動産投資である。そして、まさにこのような「投資依存」の体質から中国経済の「死に至る病」が生じてきているが、それについての論考は次回に譲ろう。(初出:月刊『Hanada』2021年6月号)

中国共産党暗黒の百年史

関連する投稿


中国を利するだけだ!「習近平失脚説」詐術の構造|遠藤誉【2025年10月号】

中国を利するだけだ!「習近平失脚説」詐術の構造|遠藤誉【2025年10月号】

月刊Hanada2025年10月号に掲載の『中国を利するだけだ!「習近平失脚説」詐術の構造|遠藤誉【2025年10月号】』の内容をAIを使って要約・紹介。


人権弾圧国家・中国との「100年間の独立闘争」|石井英俊

人権弾圧国家・中国との「100年間の独立闘争」|石井英俊

人権弾圧国家・中国と対峙し独立を勝ち取る戦いを行っている南モンゴル。100年におよぶ死闘から日本人が得るべき教訓とは何か。そして今年10月、日本で内モンゴル人民党100周年記念集会が開催される。


「習近平失脚説」裏付ける二つの兆候|長谷川幸洋【2025年9月号】

「習近平失脚説」裏付ける二つの兆候|長谷川幸洋【2025年9月号】

月刊Hanada2025年9月号に掲載の『「習近平失脚説」裏付ける二つの兆候|長谷川幸洋【2025年9月号】』の内容をAIを使って要約・紹介。


旧安倍派の元議員が語る、イランがホルムズ海峡を封鎖できない理由|小笠原理恵

旧安倍派の元議員が語る、イランがホルムズ海峡を封鎖できない理由|小笠原理恵

イランとイスラエルは停戦合意をしたが、ホルムズ海峡封鎖という「最悪のシナリオ」は今後も残り続けるのだろうか。元衆議院議員の長尾たかし氏は次のような見解を示している。「イランはホルムズ海峡の封鎖ができない」。なぜなのか。


自衛官の処遇改善、先送りにした石破総理の体たらく|小笠原理恵

自衛官の処遇改善、先送りにした石破総理の体たらく|小笠原理恵

「われわれは日本を守らなければならないが、日本はわれわれを守る必要がない」と日米安保条約に不満を漏らしたトランプ大統領。もし米国が「もう終わりだ」と日本に通告すれば、日米安保条約は通告から1年後に終了する……。日本よ、最悪の事態に備えよ!


最新の投稿


犯罪的暴言 薛剣大阪総領事に厳罰を!|遠藤誉【2026年1月号】

犯罪的暴言 薛剣大阪総領事に厳罰を!|遠藤誉【2026年1月号】

月刊Hanada2026年1月号に掲載の『犯罪的暴言 薛剣大阪総領事に厳罰を!|遠藤誉【2026年1月号】』の内容をAIを使って要約・紹介。


【読書亡羊】「麻辣強国」VS「マサラ強国」…米中印G3時代への準備はいいか  中川コージ『インドビジネスの表と裏』(ウェッジ)|梶原麻衣子

【読書亡羊】「麻辣強国」VS「マサラ強国」…米中印G3時代への準備はいいか 中川コージ『インドビジネスの表と裏』(ウェッジ)|梶原麻衣子

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


アベノミクスからサナエノミクスへ|馬渕磨理子【2026年1月号】

アベノミクスからサナエノミクスへ|馬渕磨理子【2026年1月号】

月刊Hanada2026年1月号に掲載の『アベノミクスからサナエノミクスへ|馬渕磨理子【2026年1月号】』の内容をAIを使って要約・紹介。


【今週のサンモニ】ノーベル平和賞報道でも本末転倒|藤原かずえ

【今週のサンモニ】ノーベル平和賞報道でも本末転倒|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。


「ザイム真理教」から「感謝される財務省」へ|櫻井よしこ×片山さつき【2026年1月号】

「ザイム真理教」から「感謝される財務省」へ|櫻井よしこ×片山さつき【2026年1月号】

月刊Hanada2026年1月号に掲載の『「ザイム真理教」から「感謝される財務省」へ|櫻井よしこ×片山さつき【2026年1月号】』の内容をAIを使って要約・紹介。