幸い、最も懸念されたスーザン・ライスの国務長官起用は当面なくなった。彼女はオバマの安保補佐官時代に、北の核ミサイル保有は絶対に認めないと繰り返しながら、退任後は一転して、北を核保有国と認めたうえで平和共存の道を探るべきと主張した、無定見を絵に描いたような人物である。
ライスは、ホワイトハウスの国内政策委員会の委員長に就く方向という。そのポジションなら国際的にさほど害はないだろう。
もう一人、気になるのが、バイデンが上院外交委員長時代に、ブリンケン主席補佐官の下で、東アジア・太平洋問題補佐官を務めたフランク・ジャヌージ(現マンスフィールド財団理事長)である。
二人の関係から見て、ブリンケンが国務長官となれば、北朝鮮との実務交渉を担う国務次官補辺りに起用される可能性も出てくる。ジャヌージは筋金入りの宥和派で、私も7、8回面談したが、「一歩一歩互いに歩み寄りながら」というスタンスを崩さない。「それは米側が繰り返し北に騙されてきたパターンだ」と反論しても、「他に手段はない」と頑なである。
核ミサイルに加え、拉致問題を重視する日本にとっては、なし崩し的に制裁解除に向かう深刻な事態となりかねず、しっかり釘を刺していく必要がある。
独善的な要注意人物
国連大使には黒人女性のリンダ・トーマスグリーンフィールドが起用されたが、国務省の官僚出身(アフリカ担当国務次官補など)で、かつてのボルトンやニッキー・ヘイリーのような、国連安保理を舞台にした強い発信力とリーダーシップは期待しがたいだろう。
イラン核合意の実務交渉を担い、対北宥和派としても知られるウェンディ・シャーマンも、対北交渉に絡む要職に就くかもしれない。彼女は独善的で、日本の意見に素直に耳を傾けるといった姿勢は、かねてよりない。要注意である。
なお、「知日派」の大御所リチャード・アーミテージ元国務副長官は、共和党員でありながら、4年前のヒラリー支持同様、今回もいち早くバイデン支持を表明した。
アーミテージは民主党の長老ジョセフ・ナイとともに、共和、民主いずれの政権となっても協力して東アジア外交に当たることを黙契としたアーミテージ・ナイ・グループを率いている。
マイケル・グリーンらを含むこのグループは、基本的考えにおいて常識的で、思惑どおりバイデン政権に影響力を確保できるなら、日本としては歓迎できるだろう。トランプでなくバイデンを明確に支持した以上、しっかり結果につなげてもらわねばならない。(初出:月刊『Hanada』2021年2月号)