習近平の独裁的衝動は止まらない
なぜ西洋諸国の多くの人々が、中国共産党の脅威を軽視したり否定したりするのか、その理由を探るのが本書のテーマである。
その理由の一つは、もちろん金銭的な利害関係だ。アプトン・シンクレアが言ったように「理解できないからこそ給料がもらえている人に、その何かを理解させようとするのは難しい」のだ。もう一つの理由は、特に左翼の一部の人たちにありがちな「そっちこそどうなんだ主義」(whataboutism)である。
たとえば、中国は不愉快なことをしているかもしれないが、アメリカこそどうなんだ? という議論だ。この戦術は、ホワイトハウスにドナルド・トランプがいた状況では、さらに効果的だった。
ところがアメリカとその外交政策について、たとえそれが過去・現在に関わらずどんな批判があろうとも――実際のところ我々(著者)は強い批判者だが――、それは中国共産党政権による極端な人権侵害と自由の弾圧の罪を軽減したり、擁護できるものとはならない。
もちろん欠点はあるにせよ、アメリカというのは世界中の他の民主制国家と同様に、効果的な反対勢力を抱え、政権を交代させる選挙を行い、国家からほぼ独立した裁判所を持ち、多様性に富み、制約を受けず、しばしば政府を強く批判するメディアがあり、そして不正に対して抵抗できる、繁栄した市民社会を維持している。
中国共産党が支配している中国には、これらが存在しない。西洋諸国の民主国家の一部の政治家には独裁的な傾向があり、これは実際に懸念すべきことだが、それでも彼らが活動している体制の中で抑制されている。
ところが習近平の独裁的な衝動を抑制するものは、ほとんど存在しない。中国共産党は、習近平やその仲間たちが毛沢東のような最高指導者として台頭するのを防ぐために、集団指導体制や幹部の任期などの政治的な制約を設定したが、それが解体されてしまった今では抑制がさらに難しくなっている。
したがって、西洋諸国と民主制度には全般的にたしかに多くの問題があるけれども、それでも中国共産党が提供する政治体制はその解決策にはならない。
西洋諸国が中国共産党の脅威にうまく対処できていないのは、これまで中国共産党のような敵と戦う必要がなかった事実に加えて、そもそも中国共産党について無知であったことが原因だと言えよう。
冷戦時代、西洋諸国の中にはソ連と深い経済関係を持っている国はなかった。現在は実に多くの国が、中国の経済面や戦略面での重要性を意識して、中国について詳しく知ろうとしている。ところが北京はそれと同時に「中国をよりよく理解してもらう」ことを支援するために資金を注ぎ込んでいる。
もちろん中国から直接情報を得るのは賢明なように思えるが、これから我々が示していくように、これは大きな間違いなのだ。
著者略歴
オーストラリアの作家・批評家。著作に『目に見えぬ侵略:中国のオーストラリア支配計画』(Silent Invasion: China’s Influence in Australia)『成長への固執』(Growth Fetish)、『反論への抑圧』(Silencing Dissent:サラ・マディソンとの共著)、そして『我々は何を求めているのか:オーストラリアにおけるデモの歴史』(What Do We Want: The Story of Protest in Australia)などがある。14年間にわたって自身の創設したオーストラリア研究所の所長を務め、キャンベラのチャールズ・スタート大学で公共倫理学部の教授を務めている。