中国共産党は全ての自由を否定している/『見えない手』前書き

中国共産党は全ての自由を否定している/『見えない手』前書き

6万部突破のベストセラー『目に見えぬ侵略』の第二弾『『見えない手 中国共産党は世界をどう作り変えるか』がついに発売! アメリカ、イギリス、EU各国での中国の影響力工作を実名で暴露。さらに日本についても特別加筆もある必読の書です。こちらでは原著前書きを公開!


習近平の独裁的衝動は止まらない

なぜ西洋諸国の多くの人々が、中国共産党の脅威を軽視したり否定したりするのか、その理由を探るのが本書のテーマである。

その理由の一つは、もちろん金銭的な利害関係だ。アプトン・シンクレアが言ったように「理解できないからこそ給料がもらえている人に、その何かを理解させようとするのは難しい」のだ。もう一つの理由は、特に左翼の一部の人たちにありがちな「そっちこそどうなんだ主義」(whataboutism)である。

たとえば、中国は不愉快なことをしているかもしれないが、アメリカこそどうなんだ? という議論だ。この戦術は、ホワイトハウスにドナルド・トランプがいた状況では、さらに効果的だった。

ところがアメリカとその外交政策について、たとえそれが過去・現在に関わらずどんな批判があろうとも――実際のところ我々(著者)は強い批判者だが――、それは中国共産党政権による極端な人権侵害と自由の弾圧の罪を軽減したり、擁護できるものとはならない。

もちろん欠点はあるにせよ、アメリカというのは世界中の他の民主制国家と同様に、効果的な反対勢力を抱え、政権を交代させる選挙を行い、国家からほぼ独立した裁判所を持ち、多様性に富み、制約を受けず、しばしば政府を強く批判するメディアがあり、そして不正に対して抵抗できる、繁栄した市民社会を維持している。

中国共産党が支配している中国には、これらが存在しない。西洋諸国の民主国家の一部の政治家には独裁的な傾向があり、これは実際に懸念すべきことだが、それでも彼らが活動している体制の中で抑制されている。

ところが習近平の独裁的な衝動を抑制するものは、ほとんど存在しない。中国共産党は、習近平やその仲間たちが毛沢東のような最高指導者として台頭するのを防ぐために、集団指導体制や幹部の任期などの政治的な制約を設定したが、それが解体されてしまった今では抑制がさらに難しくなっている。

したがって、西洋諸国と民主制度には全般的にたしかに多くの問題があるけれども、それでも中国共産党が提供する政治体制はその解決策にはならない。

西洋諸国が中国共産党の脅威にうまく対処できていないのは、これまで中国共産党のような敵と戦う必要がなかった事実に加えて、そもそも中国共産党について無知であったことが原因だと言えよう。

冷戦時代、西洋諸国の中にはソ連と深い経済関係を持っている国はなかった。現在は実に多くの国が、中国の経済面や戦略面での重要性を意識して、中国について詳しく知ろうとしている。ところが北京はそれと同時に「中国をよりよく理解してもらう」ことを支援するために資金を注ぎ込んでいる。

もちろん中国から直接情報を得るのは賢明なように思えるが、これから我々が示していくように、これは大きな間違いなのだ。

著者略歴

クライブ・ハミルトン | Hanadaプラス

https://hanada-plus.jp/articles/371

オーストラリアの作家・批評家。著作に『目に見えぬ侵略:中国のオーストラリア支配計画』(Silent Invasion: China’s Influence in Australia)『成長への固執』(Growth Fetish)、『反論への抑圧』(Silencing Dissent:サラ・マディソンとの共著)、そして『我々は何を求めているのか:オーストラリアにおけるデモの歴史』(What Do We Want: The Story of Protest in Australia)などがある。14年間にわたって自身の創設したオーストラリア研究所の所長を務め、キャンベラのチャールズ・スタート大学で公共倫理学部の教授を務めている。

著者略歴

関連する投稿


トランプの真意とハリスの本性|【ほぼトラ通信4】石井陽子

トランプの真意とハリスの本性|【ほぼトラ通信4】石井陽子

「交渉のプロ」トランプの政治を“専門家”もメディアも全く理解できていない。トランプの「株価暴落」「カマラ・クラッシュ」予言が的中!狂人を装うトランプの真意とは? そして、カマラ・ハリスの本当の恐ろしさを誰も伝えていない。


習近平「チベット抹殺政策」と失望!岸田総理|石井陽子

習近平「チベット抹殺政策」と失望!岸田総理|石井陽子

すぐ隣の国でこれほどの非道が今もなお行なわれているのに、なぜ日本のメディアは全く報じず、政府・外務省も沈黙を貫くのか。公約を簡単に反故にした岸田総理に問う!


中国、頼清徳新総統に早くも圧力! 中国が描く台湾侵略シナリオ|和田政宗

中国、頼清徳新総統に早くも圧力! 中国が描く台湾侵略シナリオ|和田政宗

頼清徳新総統の演説は極めて温和で理知的な内容であったが、5月23日、中国による台湾周辺海域全域での軍事演習開始により、事態は一気に緊迫し始めた――。


全米「反イスラエルデモ」の真実―トランプ、動く! 【ほぼトラ通信3】|石井陽子

全米「反イスラエルデモ」の真実―トランプ、動く! 【ほぼトラ通信3】|石井陽子

全米に広がる「反イスラエルデモ」は周到に準備されていた――資金源となった中国在住の実業家やBLM運動との繋がりなど、メディア報道が真実を伝えない中、次期米大統領最有力者のあの男が動いた!


【読書亡羊】出会い系アプリの利用データが中国の諜報活動を有利にする理由とは  『トラフィッキング・データ――デジタル主権をめぐる米中の攻防』(日本経済新聞出版)

【読書亡羊】出会い系アプリの利用データが中国の諜報活動を有利にする理由とは 『トラフィッキング・データ――デジタル主権をめぐる米中の攻防』(日本経済新聞出版)

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


最新の投稿


【今週のサンモニ】反原発メディアが権力の暴走を後押しする|藤原かずえ

【今週のサンモニ】反原発メディアが権力の暴走を後押しする|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。


【読書亡羊】「時代の割を食った世代」の実像とは  近藤絢子『就職氷河期世代』(中公新書)

【読書亡羊】「時代の割を食った世代」の実像とは  近藤絢子『就職氷河期世代』(中公新書)

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


【今週のサンモニ】臆面もなく反トランプ報道を展開|藤原かずえ

【今週のサンモニ】臆面もなく反トランプ報道を展開|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。


トランプ再登板、政府与党がやるべきこと|和田政宗

トランプ再登板、政府与党がやるべきこと|和田政宗

米国大統領選はトランプ氏が圧勝した。米国民は実行力があるのはトランプ氏だと軍配を上げたのである。では、トランプ氏の当選で、我が国はどのような影響を受け、どのような対応を取るべきなのか。


【今週のサンモニ】『サンモニ』は最も化石賞に相応しい|藤原かずえ

【今週のサンモニ】『サンモニ』は最も化石賞に相応しい|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。