「恐れずに生きる権利」に脅威をもたらす中国共産党
「民主主義の自由は歴史に裏打ちされたものであり、いずれ世界のあらゆる場所で勝利するだろう」という心地よい信念は、常に希望的観測にあふれたものであった。ここ20年から30年の世界の出来事が教えているのは、もはやこのような前提が通用しなくなったということだ。
普遍的人権、民主的な手続き、そして法の支配などには強力な敵が存在し、その中でも最も手ごわい存在が、中国共産党に支配されている中国であることは間違いない。
中国共産党の影響力と干渉のプログラムは、巧みに企てられた大胆なものであり、莫大な経済資源や、技術力に支えられている。西欧諸国の制度を破壊し、そのエリートを取り込むという広範なキャンペーンは、中国共産党の指導者たちが期待していたよりもはるか進んでいる。
第二次世界大戦後に構築された民主的な制度や世界秩序は、想像以上に脆弱(ぜいじゃく)であったことが証明され、実際のところ民主主義制度に対して展開されている、現在の政治闘争における新兵器に対しても脆弱なのだ。
西洋諸国の多くの人々は認めたがらないが、中国共産党は民主制度の弱点を利用して、民主制度そのものを弱体化させようとしている。
中国共産党がもたらす脅威は、すべての人がもつ「恐れずに生きる権利」に、暗い影を落としている。西洋諸国に住む多くの中国人、チベット人、ウイグル人、法輪功の信者、そして香港の民主化活動家たちは、中国共産党の弾圧の最前線にいて、常に恐怖の中で生きている。
政府、学術機関、企業の首脳たちは、北京の怒りに触れた場合の経済的な報復を恐れている。この恐怖は伝播(でんぱ)しやすく、有害なものだ。国家繁栄のための代償として、このようなことを常態化させてはならない。
西洋諸国のあらゆる民主制度が影響を受けている。その抵抗が弱いおかげで、北京の強要と脅迫の戦術は、ますます広範な人々に対して使用されはじめている。中国共産党の圧力を直接感じない人もいるだろう。
それでも北京の権威主義的な規範(きはん)が世界中に輸出されているため、世界は変化しているのだ。
もし出版社、映画会社、劇場の経営者たちが「中国の人民の感情を傷つける」可能性のある意見を検閲しようと決めれば、その瞬間に言論の自由は否定されてしまうことになる。ツイッターで北京を怒らせるようなシンプルなことを書き込んでも、それで職を失うことになる人も出てくるかもしれない。
大学のトップが教授たちに対して中国共産党に対する批判を和らげるように圧力をかけたり、ダライ・ラマがキャンパスに入ることを禁止した瞬間に、学問の自由は侵されることになる。
また、仏教団体が習近平への忠誠を誓い、教会の信徒の中にスパイが潜入した瞬間に、信教の自由は脅(おびや)かされてしまう。北京の監視体制はサイバー空間での侵入や合法的な抗議活動に参加する市民の撮影などで強化されており、すでに個人のプライバシーは侵害されている。
中国共産党と結びついた組織や党の代理人が政治家を堕落させ、北京が自らの仕事のために強力なビジネスロビーを共謀して行うとき、民主制度そのものが攻撃されるのだ。