日本では報道されない世界を驚愕させた首相電撃辞任の裏側、アジア最後の巨人・マハティール独占インタビュー|末永恵

日本では報道されない世界を驚愕させた首相電撃辞任の裏側、アジア最後の巨人・マハティール独占インタビュー|末永恵

95歳、アジア最後の巨人・マハティール前首相への完全独占インタビューが実現。首相電撃辞任の裏側に隠されたかつてない政治闘争。政変の背後には首謀者と王族との結託までもが見え隠れする。日本では報道されないマレーシア政界の知られざる暗闘を現地在住ジャーナリストの末永恵氏が緊急レポート。


末永 マレーシアの政治、政局についてどう評価されていますか。2020年2月の与党連合「希望連盟」の崩壊で、マレーシアの民主主義は葬られましたか。

マハティール マレーシアの政治状況は良くありません。なぜなら、新政府は選挙を経て、国民の負託を受けていないからです(2018年5月の前回の総選挙で敗北した与党の「統一マレー国民組織」(UMNO)が現在、与党連合に参加している)。しかも、経験不足で政権を運営する能力や人材がない。また、新政府の目的は、国家繁栄や成長の政策を掲げ、国民のための政治を行うのではなく、権力にただしがみつくことにまい進しているのです。 

巨額のバラマキ

末永 2020年11月26日、重要法案が可決されました、2021年の予算案です。否決されれば、ムヒディン政権が退陣を要求される可能性がありましたが、辛うじてその危機を回避しました。しかし、予算案に反対したのは野党のマハティール氏の政党と一部議員13人(下院定数222)で、他の野党連合は、棄権しました。また、アブドラ国王が全議員に対して予算案に賛成するよう協力を促しました。国王の政治的関与は、憲法違反です。どう受け止められていますか。

マハティール 国王は命令ではなく、アドバイスをされたので、議員は賛成するか、反対するか、選択できました。問題は、予算案そのもので、その中身が悪かった。予算案が劣悪なものだったので我々は反対したのです。巨額のバラマキ予算ですが、その資金がどこから捻出されるのか一切、言及されていない。また、野党連合は事前に、全員が反対に回ることで合意していたのに、実際は、彼らは棄権するよう指示を受けていた。なぜだかわかりませんが、結局、予算案は可決されました。

しかし、問題はなぜ、野党連合は否決することを事前に全体合意していたのに棄権し、約束を遵守しなかったのかです。だから野党の各政党内で、批判が噴出しました。野党が結束して反対する、という野党連合合意を覆してしまったからです。

末永 野党連合の指導者、アンワル氏が採決直前に全野党議員に「棄権」するよう、指示を出したと明らかにしました。予算案はコロナ対策も含まれ重要で、しかも国王の意向に反することは良くないということだったということですが。

マハティール アンワルは野党連合の指導者であるべきですが、彼は一野党(人民正義党=PKR)の党首にすぎません。なので、他の野党党首はじめ、党員が彼に従うこともないし、その必要もない。しかし、今回は予算案に野党一致で反対すると全会一致で事前合意していたのに、直前のアンワルの「棄権」の指示で、我々の政党と一部の議員以外の大多数の野党党員が、事前の否決合意に反して投票自体の棄権をしたことに、非常に驚きました。こんな指示を出す、アンワルをいまだ支持するとは、なぜなのか大変不思議でなりません。

政変を指示したという噂は嘘

末永 政権交代が果たした与党連合「希望連盟」が2年弱で崩壊した背景に、2月23日のムヒディン、アズミン、マレーシアの二大野党である統一マレー国民組織、全マレーシア・イスラム党(PAS)のクーデター決行、これを受けた翌日のマハティール首相の首相辞任。なぜあなたは自ら辞任したのですか。あなたの長い政治生命の中で、今、振り返って、あのクーデターによる政変は何だったのか。

マハティール 私が、首相をはじめわが党のマレーシア統一プリブミ党(PPBM)総裁を辞任する前に、わが党から離反者が出て、アズミンが所属する人民正義党(PKR)からも離反者が出たため、その時点で与党は下院での過半数を失っていました、すでに政府として機能しなくなったのです。さらに、離反者は統一マレー国民組織のメンバーとホテルで談合し、過半数を形成しており、こうした状況下で政府は崩壊したのです。

そこで私は、自分の政党の総裁職を辞任しました。なぜなら、党員は私の指示に従わなかったからです。信任を失って辞任すべきと判断し、同時に首相も辞めました。つまり、私が辞任する以前に、すでに政府は打倒されていたのです。ですので、与党連合「希望連盟」の政府が崩壊した時点で、私は首相ではなくなっていた。自ら辞任したのは、政府崩壊後です。
末永 あなたの腹心の造反劇でしたが、あなたはこうした事態を事前に知っていたのでは、とも見られていますが。

マハティール それは全く真実ではありません。私は知りませんでした。ただ、私の首相時代から、わが政党や与党内で、“裏口政府“が形成されるという噂で持ち切りでした。特に、前回の総選挙で敗北した統一マレー国民組織の国会議員が政府に戻ってきたかったが、選挙では敗北してしまっているので、与党の党員に働きかけ、野党に鞍替えするよう圧力をかけてきた。残念ながら、私の党員やアズミンが率いた党はその圧力に負け、野党勢力が過半数を形成した。

実際、私は与野党連合のトップとして首相に就任してくれないか打診を受けましたが、断りました。私は「私を担ぐ中に、我々が汚職や腐敗で追及し、裁判所で犯罪容疑を言い渡された犯罪人がおり、そんなことはできない」と言い放ちました。しかし、代替案として首相になる案をムヒディンは受け入れた。特に、統一マレー国民組織の犯罪人と手を組むのを歓迎した。なので、私がこの政変を指示、提案したという噂は、嘘です。私は、一切、関わっていません。

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