映画『熱狂宣言』 奥山和由監督インタビュー|編集部

映画『熱狂宣言』 奥山和由監督インタビュー|編集部

映画『熱狂宣言』は、「外食業界の風雲児」の異名をとり、若年性パーキンソン病であることを告白した、DDホールディングス社長・松村厚久のドキュメンタリーです。普段、奥山さんは映画をプロデュースする立場ですが、今作では監督。


株主全員に許諾を

──株主総会のシーンが長めに使われていて、他のシーンとのギャップを感じました。


奥山 事業家として、唯一向かい風に立っているところですね。ああいうシーンを入れておかないと、パーティで騒いでいるのが大好きな気な社長になってしまうので(笑)。企業家として、こういう場に立ち、仕事をしているシーンとして残りました。


株主総会の映像は、本来、目的外使用は禁止されているから、使用するのに苦労しました。僕がではなく、会社の人がですが(笑)。株主全員に許諾を取ったんですよ。


──あの松村さんにクレームを入れている人にも?


奥山 もちろん。誰かわからないように、映像や音声には加工を施しましたけどね。


個人的には、株主総会のあとで「どうってことない」と言いながらちょっとショックを受けている松村さんの顔が好きですね。あれが正と負の真ん中あたりの表情なのかなと。


──映画のジャンルで言うなら「難病もの」ですが、感動させようとはせず、松村さんと周りの人が楽しんでいるのが伝わってきますね。


奥山 難病と戦う姿よりも、その周りにいる人のほうを撮りたかったというのもあります。「社長がかわいそうだから支えよう」というのではなく、「この人が好きだからサポートしよう」という感じ。たしかに社長と社員という関係ではあるんだけど、腫れ物に触れるようではなく、時には具合の悪い松村さんを引きずったりしていたでしょう(笑)。そういう関係性がよかったですね。


映画内でも使いましたが、あまりに松村さんが元気だから「病気が治っちゃいそうだね」と言ったら、「何言っているんですか、治りますよ!」と。普通、病人のほうが「治るかな」と気弱になって、周りが「治るよ!」と励ますものだけど、逆だった(笑)。そういう人なんですよ

共犯意識が楽しい

──本作の次は何を?


奥山 11月17日にプロデュースした『銃』(武正晴監督、中村文則原作)が公開されます。


いまは大林宣彦監督の『海辺の映画館─キネマの玉手箱』を製作中です。大林監督、元気ですよ。打ち合わせの時は車いす、クランクインが近づいてくると杖になり、撮影に入ったら普通に立って歩いているんですから(笑)。先日はロケ地で大雨が降っているのに、1人で杖もなく山を登っていました。中島貞夫さんといい、山田洋次さんといい、あの年代の人はお元気だ。


──映画製作は楽しいですか?


奥山 先日、中島さんが「皆さんに迷惑かもしれないけど、あと1本撮りたい」とおっしゃっていたので、僕はこう言いました。


「中島さん、そもそも映画製作自体が迷惑なんです。迷惑をかけてやるのが映画ですから」(笑)


当たるかどうかわかりませんし、作らなくてもいいといえば作らなくてもいいんだから、映画製作って迷惑でしかないんですよ(笑)。


でもやっぱりおもしろさはあって、1つは迷惑であるはずの映画が、ある段階で利権になる。つまり、儲かりそうになる。すると、やたら人が群がってくるんですよ。それを排除しながら、いかに自分の思う作品にできるかという権力ゲームみたいなところがあって、それに燃えますね(笑)。


もう1つは、負け戦だろうが勝ち戦だろうが、やっているうちに本当に映画が好きな人間が集まってくる。そういう純化した気持ちを持って一緒に作品を作っていく仲間意識、というより共犯意識みたいなものがあって、それが楽しいですね。


──本作撮影前にあったという閉塞感は、この作品を監督することで突破できましたか?


奥山 うーん、まだあるし、閉塞感それ自体を楽しむことはできないんだけど、許される範囲内で自分をどう熱くさせられるか、おもしろがらせることができるか、ということを考えるようになりました。


そういう意味では、松村さんに会って、この映画を撮ってよかったなと思います。

映画『熱狂宣言』

製作・監督/奥山和由 出演/松村厚久 11月4日 TOHOシネマズ六本木ヒルズにて公開

(配給・KATSU-do/チームオクヤマ) (c)2018 吉本興業/チームオクヤマ

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