映画『熱狂宣言』 奥山和由監督
製作・監督/奥山和由 出演/松村厚久 11月4日 TOHOシネマズ六本木ヒルズにて公開
(配給・KATSU-do/チームオクヤマ) (c)2018 吉本興業/チームオクヤマ
清涼剤のような存在
──映画『熱狂宣言』は、「外食業界の風雲児」の異名をとり、若年性パーキンソン病であることを告白した、DDホールディングス社長・松村厚久のドキュメンタリーです。普段、奥山さんは映画をプロデュースする立場ですが、今作では監督。レーサーのドキュメンタリー『Crash クラッシュ』以来、15年ぶりの監督はいかがでしたか?
奥山 実は、そういう意識は全くないんですよ。そもそもこの映画も、最初は自分が監督するつもりはなくて、テレビマンユニオンの監督を立ててやるつもりでいましたから。結果的に監督になっちゃったという感じで(笑)。
――松村さんを撮影対象にしようと思ったきっかけは?
奥山 2016年末に、退屈していて1人で海に行こうとしたんだけど、電車に乗る時間が長かったから、ブックオフに行って本を探したんです。いろいろ見ていたら、『熱狂宣言』というタイトルの単行本が目に入って、その表紙写真の男の顔立ちがとてもよかった。当時、僕は映画を作ることに手枷足枷首枷をはめられているような妙な閉塞感を覚えていたから、彼のぶれない目つきみたいなものに惹かれたんです。
それに著者が小松成美さんで、彼女の書いた『中田英寿 鼓動』がおもしろかったから、小松さんの書くものならと思って買いました。車中で読んでいたら、小松さんも出てくる人たちも、やけに松村厚久という人を持ち上げている。「すばらしい人だ」「彼を支えているのではなく、僕が彼に支えられている」……ちょっと気恥ずかしくなるぐらいで、「あの小松成美にして、ここまで書かせる男なのか」と驚いて、会いたくなったんです。年が明けてから版元の幻冬舎に頼んで、会うセッティングをしてもらいました。
こういう仕事をしているから、誰かに会う時、頭のなかに「映画にできるかな」という思いは常にありますが、会って惹かれなければ映画にはできないんだけど、会うやすぐさま「撮ろう!」と決めました。
──どこに惹かれたんですか?
奥山 自分にとって、何かプラスになるようなオーラを持っていて「彼を見ていると元気になる」と感じたんです。それが何なのかを突き止めたいというよりも、この人を撮ることで同じ時間を過ごしたい、という気持ちが強かったですね。先ほど言った、閉塞感のなかにいる自分にとって、一服の清涼剤のような存在になりました。
ただ、病気のサポートもあって常に社員が傍にいるから、一度、「2人っきりで話をさせてくれ」とお願いして、2時間くらい松村さんと2人だけで話しました。背筋を伸ばして、相手の目を見て、僕の話も一所懸命聞く。喋りにくくても、伝わるまで頑張って話す。とても真摯でしたね。
そろそろ終わりにしようと思ったら、いつもはスマートフォンで社員を呼ぶんですが、「奥山さん、(スマートフォンの)このボタンを押して社員を呼んでくれます?」と言われました。話している間に体が固まっちゃったんですね。この時だけでなく、そういうつらい状態になっても、自分からは決して「終わりにしましょう」とは言わない。相手が帰るというまで相手をする。あれはすごいと思いましたね。
忙しく、次の予定があるので早めに打ち切ろうとすると、「もう帰るんですか」と駄々をこねられたこともあって。「寂しいじゃないですか!(笑)」と素直に言ったりね。人が好きなんでしょう。