米の対中強硬方針は日本への戒め|田久保忠衛

米の対中強硬方針は日本への戒め|田久保忠衛

ポンペオ米国務長官がカリフォルニア州のニクソン図書館で行った「共産主義中国と自由世界の将来」と題する演説の真意とは何か。日本の政財界指導者にとって、ポンペオ演説は頂門の一針になろう。


経済繁栄の前提は国の安全

ポンペオ長官が心配しているのは、同盟国の間に中国を恐れる国が出てくるかもしれないことだ。北大西洋条約機構(NATO)同盟国の中に、香港問題で必要な時に立ち上がらなかった国があると長官は不満を漏らし、それは中国市場への参入を制限すると脅され、臆病にもそれにひるむ国がいるからだと指摘した。

誰でもドイツを連想するだろう。防衛費を国内総生産(GDP)の2%に増やす約束を履行せず、ロシアの天然ガス導入プロジェクト「ノルドストローム2」を推進し、中国に接近してきたのはドイツのメルケル首相だ。怒ったトランプ大統領は、在独米軍の一部引き揚げを表明した。

経済的利益の追求は重要だが、国の安全があってこそ成立する。日本の政財界指導者にとって、ポンペオ演説は頂門の一針になろう。( 2020.08.03国家基本問題研究所「今週の直言」より転載)

著者略歴

田久保忠衛

https://hanada-plus.jp/articles/399

国家基本問題研究所副理事長。1933年千葉県生まれ。早稲田大学法学部卒業後、時事通信社に入社。ハンブルグ特派員、那覇支局長、ワシントン支局長、外信部長などを務める。1992年から杏林大学で教鞭を執る。法学博士。杏林大学名誉教授。専門は国際政治。国家基本問題研究所副理事長。美しい日本の憲法をつくる国民の会共同代表。著書に『戦略家ニクソン』『激流世界を生きて』『憲法改正、最後のチャンスを逃すな!』など多数。

国家基本問題研究所「今週の直言」

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