津田大介氏の挑発ツイート
門田 国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」の企画展「表現の不自由展・その後」(以下、「不自由展」)の展示が2019年10月8日、再開されました。河村さんは再開当日、会場となっている愛知芸術文化センター前で、座り込みをされましたね。
河村 本当は会場内で抗議したいのですが、強引に会場に入ると、またつまらん非難を受けますから、外で座り込みをしました。
門田 芸術監督の津田大介氏は、河村さんの座り込みに対して、ツイッターで「座り込みよりかはハンガーストライキの方が政治的効果は高いんじゃないですかね」と書き込みました。批判が殺到したため、書き込みは削除しましたが、このことに対してどう思われますか。
河村 完全に馬鹿にしていますね。
門田 また、大村秀章知事もツイッターでこう非難しています。
「まさか、こんなことをするなんて。衝撃です。制止を振り切って、県立美術館の敷地を占拠して、誹謗中傷のプラカードを並べて、美術館の敷地の中で叫ぶ。芸術祭のお客様の迷惑も顧みず。常軌を逸してます」
「河村さんの今日の行動は、右翼団体と称する方々と共同で、事実と異なるプラカードを並べて、ヘイトまがいのスピーチをしたものです。それも、県立美術館の敷地を占拠して。とても、公職者の方がやられることとは思えません。極めて危険な行為です」
河村 私がまるで暴力的に抗議しているかのような書きぶりですが、そんなことはありません。私に言わせれば、実行委員会の会長代行である私に何の話も通さず、一方的に再開を決めた大村知事のほうがはるかに暴力的ですよ。
展示再開で、大村知事を権力に屈しなかった英雄のようにマスコミが持ち上げているのも違和感があります。
大村知事は強引に展示を再開することで、今回、自身の権力を誇示、アピールしました。私からすれば、大村知事は反権力側ではなく、むしろ権力側の人間なんですよ。それをマスコミが「よくやった!」と持ち上げている。
門田 大村知事のリコール運動だとか不信任決議案提出とかまで問題が大きくなるかと思ったら、そこまではいきそうもありませんね。愛知県はいったいどうなっているんだと、県外の人間は歯噛みしていますよ。
河村さんを支持する声はネットで圧倒的です。たとえば、夕刊フジが「表現の自由」をめぐり、大村知事の「内容は問わない」(=テレビ番組で『憲法上の公権力者の首長が、表現や芸術などの内容について、これが良いか悪いかとかは言ってはならない』と発言)と、河村さんの「限度はある」という発言、どちらに賛同するかというアンケートを取ったら、河村市長支持は93%、大村知事支持は4%で、圧倒的に河村さん支持が多かった。
愛知県民がこの問題で大村知事を追及しないのは、中日6割、朝日2割という愛知の特殊な新聞占有率の影響が大きいのでは、と思っているのですが。
河村 県民というより、県議、市議の劣化が大きいのではないでしょうか。いま、政治家が「稼業」になってしまっています。とにかく、名古屋の議員、市議は給料がいい、極楽の商売なんです。
愛知県はトヨタ自動車がありますから、税収も高い。たくさん給料をもらっても、いい政治をすればいいのではと思われるかもしれませんが、残念なことに、いい給料をもらうと──全員とは言いませんが──、議員は県民よりも、家族を大事にするようになるんです。
稼業として政治をやっている人間からすれば、トップの人間とは仲良くして波風を立てないほうが得策です。本来なら、今回の問題、県議会は徹底的に大村知事を追及すべきなのに、議会が動かないのはそういう背景があります。
門田 しかし、大村知事をこのまま放っておくわけにもいかないでしょう。私がツイッターで「愛知県民は大村知事のリコール署名を始めるべきだ」と書いたところ、名古屋市民の方で賛同してくださる方が少なからずいました。大村知事と知事選で戦う可能性はありますか。
河村 総理大臣なら手を挙げたいところですが、県知事なら町内会長になったほうがいい、というのが私の持論です。
地方政治をやるなら、とくに名古屋のような政令市の場合は、市長のほうがやれることの範囲が広い。それに、私は生まれも育ちも名古屋。郷土愛も強いし、愛着もある。県知事は、どなたかいい人が出てくればいいなと思います。
度肝を抜かれた作品群
門田 おっしゃるように、議員の劣化もありますが、新聞をはじめとするマスコミの、「不自由展」をめぐる報道のひどさは常軌を逸しています。まず、展示内容を正確に報道しない。
まさか中止になると思わずに、私は8月3日の昼、「不自由展」を観に行ったんです。入り口の白いカーテンをめくって、なかに入ると、いきなり昭和天皇を髑髏が見つめている版画や、「焼かれるべき絵」と題する昭和天皇の顔を白く剥落させ、うしろに大きく赤でバッテンをつけた銅版画が展示されており、その先には、昭和天皇の肖像を燃やし踏みつける映像作品がありました。
このなかで画面が切り替わって、若い日本の女性が母親への手紙を読み上げるシーンがあり、「明日、インパールに従軍看護婦として出立します」というセリフを口にする。
私は戦争ノンフィクションも書いており、インパール作戦の生き残りにも実際に取材し、本にしています。この作戦は、補給もないまま2000メートル級のアラカン山脈を越えていく過酷なもので、看護婦がついていけるような作戦ではありません。
史実にまったく拠っていない滅茶苦茶なものだと思ったし、そのほかにも、日本兵を侮辱する作品や少女像もあるしで、目がくらむような思いがしました。
河村 私が最初に、少女像の展示があると聞いたのは、7月31日、「あいちトリエンナーレ」のレセプションの最中でした。それまで、まったく展示の内容については聞かされていなかったんです。能天気にレセプションで、「燃えよドラゴンズ、燃えよトリエンナーレ!」と歌っていたくらいですよ(笑)。
レセプションには1000人くらい集まっていたと思います。そこで津田さんが挨拶で、20分も30分も大演説しているんです。津田さんが挨拶のなかで、文化庁の人間が来るとか来ないとかという話をしているので「何か変だな」と思い、隣りの人に「どうなっているんだ」と訊いたら、「慰安婦像が展示されているそうですよ」と。
「え!? そんな馬鹿な……」と信じられませんでした。最初は展示してあると言っても、まぁ慰安婦像の新聞記事を使った作品があるのだろうくらいに思っていたのですが、翌日、松井一郎大阪市長から「あいちトリエンナーレで、慰安婦像が展示されているらしいじゃないか」と電話があった。
実行委員会の会長代行として責任もありますし、さすがにこの目で確かめないといけないと、翌八月二日に視察したんです。そうしたら、いま門田さんがおっしゃったような作品が展示されており、本当に度肝を抜かれました。
こんな日本人の、国民の心を踏みにじるものを名古屋市主催でやるわけにはいかないと、作品の展示を中止するよう大村知事に求めたわけです。