「つくる会」教科書不合格 文科官僚の不正|藤岡信勝

「つくる会」教科書不合格 文科官僚の不正|藤岡信勝

「新しい歴史教科書をつくる会」が作成した中学歴史の歴史教科書が文部科学省の検定で不合格となったが、それは検定は結論ありきの異常なもので、いわば文部科学官僚の不正によるものだった! 検定結果と不正の内容の告発第一弾!(初出:『Hanada』2020年4月号)


空前の数の欠陥箇所

続いて、教科書課の事務方から「不合格となるべき理由書」というタイトルがついた書類が渡された。書類は次の二つのパートからなっている。

1 検定審査不合格理由
2 欠陥箇所

表紙を兼ねた一枚目の「1 検定審査不合格理由」は7行ほどの記述で、不合格の最大の理由として「欠陥が著しく多く、教科用図書として適切性を欠いている」と書かれている。そのページの以下は余白となっている。

表紙をめくると、上部に「2 欠陥箇所」というタイトルが付いており、十箇の欄が設けられている。以下、どのページも同じ形式である。全部で43枚もある。

欠陥箇所が全体でいくつあるかを見るために最後のページを開くと、その最後の番号が「405」となっている。欠陥箇所405件! 空前の数だ。いままでも300台の検定意見を付けられたことはあったが、400の大台に乗ったのはこれが初めてである。

「そんなはずはない」という思いが最初にこみ上げてきた。『新しい歴史教科書』は過去に5回の検定を受け、いずれも合格してきた。

ただ、編集ソフトの不具合のため、最終段階で大量の変換ミスを発生させてしまったことがあった。教科書検定基準では「誤記・誤植」に分類される誤りであり、その一つひとつが検定意見の数にカウントされるから、合計で300件以上の検定意見となった。

今回は、もちろんそういうことはない。特に今回は、学習指導要領が改訂されて最初の教科書となる。新学習指導要領では世界史的な分野の内容が増えた。それに伴い、新たに書き足した部分がある。そういう箇所はミスが発生しやすいので、教科書制作にあたって二つの大方針を立てた。

一つ目の方針は、本文は現行版の記述を大きくは変えず、なるべくそのまま活かすことである。コラムの類も、特に問題がなければできるだけそのまま活かすことにした。とはいえ、新版を出すのだから、全て旧来のままというのは退嬰的である。部分的には、いままでに取り上げたことのない斬新な記事も入れることにした。執筆メンバーが一部変わったことも大きい。新しい知恵やアイデアを活かさない手はない。

二つ目の方針は、徹底した校正作業を行うことである。そのため、合計25回に及ぶ校正を繰り返した。そのうちの一回はメディアで仕事をしてきたベテランの校正マンによるものであり、数回は「新しい歴史教科書をつくる会」の支部の会員有志がチームをつくって行った作業であった。そういうわけで、よもやこれほど多数の「欠陥」が生じるとは想像もできなかった。

教科書課の事務方の担当者は、「書類をご覧になって、教科書調査官に質問があれば電話でご連絡下さい」と告げて立ち去った。部屋には内線用の受話器が一台置いてある。今日の面会は午後1時から4時までの3時間と決められている。

まず、自分たちが予習をして、予習が済んだら教科書課に電話をかけ、教科書調査官を呼び出して疑問のあるところを質問し説明してもらいなさい、というのが事務方の人が言ったことの意味である。

過去の例では、30分ほど交付された書類の中身を見てから電話をかけると、教科書調査官が数名入室する。それから残りの時間いっぱいを使って、対面して説明を受けるというパターンがほとんどだった。主任格の教科書調査官が、手際よく全体にわたって説明することもあった。もちろん、項目によっては近い専門分野の教科書調査官が説明した。

しかし今回だけは、同僚スタッフも書類に見入ったままで、なかなか書類から目が離せない。「酷い! 酷い!」と盛んに独り言をつぶやいている。

いったい、「欠陥箇所」には何が書かれていたのだろうか。いくつか例を挙げよう。

「揚げ足取り」検定の醜悪さ

「欠陥箇所」の通し番号で10番目は、申請本3ページの囲み記事である。

これは「日本歴史の舞台」と題する歴史の導入のページで、見開き2ページの真ん中に択捉島から沖縄に至る日本列島の地図が配されている。日本列島はほとんど緑でおおわれていて、海岸線や川沿いに、ところどころに平地があるだけだ。これは高度1万メートルの上空から見た、日本列島の姿なのである。

高度1万メートルから見た日本は「緑の国」、高度1000メートルから見た日本は「水田の国」、高度百メートルから見た日本は「町工場の国」というふうに、高度を下げると視野に入るものが違ってくることを、日本の歴史と重ね合わせて考えるという趣向である。時間と空間が不思議に対応している。「三つの日本が見えてくる」というこのコンセプトは、宗教学者・山折哲雄氏のエッセイに触発されたものである。

さて、文書の「指摘事項」の欄では、次の箇所がこの教材から引用されている(以下、理由書からの引用は《 》で括る)。

《「3 高度100メートルから見た日本は「町工場」の国だ」中、「黒船来航で西洋文明の衝撃を受けた日本はこの150年間に工業立国をめざして成功しました」》

この記述のどこがいけないとされたのか。それは「指摘事由」欄に書いてある。

《生徒が誤解するおそれのある表現である。(150年間)》

生徒は何を誤解するおそれがあるのか、にわかには分からない。推測するところ、ペリーが来航してからいままでが「150年間」である、と「誤解するおそれのある表現」だというのであろう。ペリー来航は1853年、この教科書を生徒が使い始めるのは2021年だから、ペリー来航からは168年となる。したがって、「150年」は誤りで「170年」でなければならない、と言いたいのだろう。

しかし、これは典型的な「揚げ足取り」に過ぎない。文章は書かれているとおりに読むのが「読み」の常道である。筆者が「この150年」と書いているのだから、いまの時点から150年を対象としているのである。文章の内容を決める権利は筆者にあって、読み手にはない。

「いま」の時点を仮に2021年とすれば、150年前は1871年となる。明治初年である。大雑把に言えば、明治初年から150年ということである。「西洋文明の衝撃を受けた日本」は明治維新の転換を成し遂げて、新しい国づくりに踏み出してからの「この約150年」に工業立国を目指したのだ。黒船来航から、すぐ「工業立国」を目指したはずがない。だから、引用された文章は、断じて「欠陥箇所」ではない。

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