ついに政府が世界平和家庭連合(旧統一協会)の解散命令を東京地裁に請求した。私は昨年10月31日付の本欄で、福音派キリスト教信者として「政府と国会が現在進めている旧統一協会への対応に恐怖を感じている。…なぜなら、信教の自由という憲法で保障されている大原則によってこれまでできないとされてきたことが、次々とできることにされているからだ」と書いた。その恐怖はより強くなっている。特に、キリスト教、仏教、神道などのリーダーを含む宗教法人審議会が解散命令請求に全会一致で賛成したことに戦慄を覚えた。
宗教団体への「人民裁判」
今回、文部科学省は解散命令請求の根拠として「法令に違反して、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為をしたこと」(宗教法人法81条1項1号)だけでなく、「宗教団体の目的を著しく逸脱した行為をしたこと」(同2号)に該当すると主張した。宗教団体に対する死刑宣言のようなものだ。
岸田文雄首相は昨年10月、「法令違反」の法令とは刑法に限られるとしていた国会答弁を一夜にして変えて民法も含まれるとし、文科省に旧統一協会に対して解散命令を視野に入れた質問権行使を命じた。
ここで、なぜ今なのかという大きな疑問が生まれる。政府は過去に旧統一協会が大きな社会問題となった時に「解散命令請求はすべきでない」と繰り返してきた。2012年に全国統一教会対策弁護団は文科省が解散命令請求をしないことを違法として国家賠償請求訴訟を起こしたが、2017年に東京地裁は行政の裁量の範囲内だとして訴えを棄却した。
その上、集団リンチ殺人という重大な刑法違反をした三つの宗教法人(神慈秀明会、紀元会、空海密教大金龍院)に対しても解散請求を行っていない。
繰り返し書くが、なぜ今なのか。誰が見ても許し難い被害事例が新たに判明したのか。そうではない。安倍晋三元首相のテロ犯が旧統一協会を恨んでいたという情報が奈良県警からリークされるや、マスコミが旧統一協会たたきを始め、旧統一協会と関係があったという理由で自民党が激しく批判され、岸田政権の支持率が下がった。それが契機だったのではないか。そうだとすると、宗教団体に対する「人民裁判」ではないか。
侵される信教の自由
朝日新聞、東京新聞などは今回社説で、安倍元首相は旧統一協会の「広告塔」だったとか、旧統一協会が度重なる非難にもかかわらず法人格を維持できた理由の一つは「自民党保守派との強い紐帯」があったからだと書いて、政府与党への攻撃を強めている。宗教団体にも政治活動の自由はある。見当外れの批判になぜ自民党は反論しないのか。
いま、旧統一協会とその信者の信教の自由が大きく侵されている。それなのに「明日は我が身」である他の宗教から、信教の自由を守れという声がほとんど出ていない。強い危機感を覚える。
【注】世界平和家庭連合(旧・世界基督教統一神霊協会)の略称には「統一協会」と「統一教会」があるが、本稿では筆者の意向で前者を使う。(2023.10.16国家基本問題研究所「今週の直言」より転載)