「聞く力」をぎりぎりまで発揮するせいか、「決める力」がないように見える岸田文雄首相だが、2月1日の期限を目前にした1月28日、「佐渡島の金山」(新潟県佐渡市)の世界文化遺産登録を国連教育科学文化機関(ユネスコ)に推薦すると正式に表明した。
今後の焦点は、国際舞台において日本政府がどこまで事実に基づく主張を展開できるかにある。それは、韓国政府から「歴史戦を挑まれている以上、避けることはできない」(安倍晋三元首相)のである。
韓国の歪曲に「理解」示す新潟日報
韓国政府はすでに、佐渡の金山は「第2次大戦時における朝鮮人強制労働被害の現場」とする主張を掲げ、日本政府の決定を強く非難している。今後、全力を挙げて登録阻止に動くだろう。
しかし、歴史的資料に明らかなように、朝鮮人労働者の待遇は内地人と同じで、宿舎は無料、安価な食事も出されていた。強制連行や強制労働の事実はない。
ところが、関係者の一部に方向感覚を欠く動きが見られる。代表例として、地元有力紙、新潟日報の社説(1月29日付)を挙げておこう。
「韓国が問題視するのは、佐渡金山は戦時中に朝鮮半島出身者が強制労働させられた被害の現場だったということだ。強制労働を巡る韓国側の心情は理解できるが、推薦された佐渡金山の対象時期は江戸時代までだ。…歴史認識と切り離して文化的価値の観点から是非を議論するのが筋だろう」
ここに見られるのは、韓国側の「被害」主張に何ら反論しないどころか「理解」を示し、「対象時期は江戸時代まで」と時期論に逃げることで論争を回避しようとする姿勢である。同紙は、事実に基づく議論であっても、朝鮮人「強制労働」に関して韓国側を刺激し、事を「政治問題化」しかねない内容の投書や意見広告は掲載しない方針とも聞く。
浅慮という他ない。逃げれば韓国側は嵩(かさ)にかかって攻めてくるのが通例だからである。佐渡金山問題を巡っては、「地元に先を見据えた準備ができていない」という声を関係者からよく聞く。新潟日報の社説を見る限り、残念ながら事実と思わざるを得ない。
警戒すべき本末転倒の対応
今後、我々が最も警戒すべきは、本末転倒の対応に陥ることである。
人権無視の独裁国を含む各国からの出向者が中心を成す国際官僚機構の一つユネスコに「世界遺産」と認定してもらい、観光資源として箔(はく)を付けたいという発想は、商売の手段として理解はできるが、そもそも一国の文化や伝統の真の価値とは無縁の世界である。例えば、皇居を世界文化遺産に申請し、ユネスコの判断を仰ごうなどと考える人はいないだろう。
ともあれ、日本政府が佐渡金山を推薦すると決めた以上、今後最も重要なのは、韓国の歴史歪曲に正面から反撃し、間違った歴史認識を正すことである。「堂々と歴史戦を戦った佐渡金山」なら、認定の成否に関わらず、敬意をもって訪れる日本人が増えるだろう。「韓国の歪曲に『理解』を示し、ユネスコ認定を得た佐渡金山」など誰も見に行こうとは思わない。(2022.01.31国家基本問題研究所「今週の直言」より転載)