メディアは置いて行かれる
では日本メディアはどうか。朝日新聞は今回の官邸ホームページの「蔡英文総統閣下」の宛名削除の件については報じながら、安倍総理の「台湾加油」のメッセージについては紙面で取り上げていません。産経はもちろん、読売、毎日も報じているにもかかわらずです。
岩波書店や朝日新聞をはじめとするメディアは普段、「弱者の立場に立って物を考えよう」「力で押さえつけるような政治は許さない」という態度を取っていながら、中国という巨大な圧力にひたむきに立ち向かっている台湾の立場を慮ることはありませんでした。
私が日本に来たのは1959年、60年安保の前年でしたが、当時大学生だった私は学生運動が始まった当初、「日本はなんて自由な国なんだ」と思ったものです。一方で、自由がありながらそれを活かさず、語るべき問題を避け、ひたすら軽佻浮薄な報道に明け暮れるメディアの問題点にも早くから気づいていました。
いま、台湾メディアは、中国の影響があるといえども、自国の地震に対して日本人がどのようなエールを送っているか、日々報じています。安倍総理のメッセージや阿部寛さんの対応から始まって、お笑い芸人やネット上の反応などを大きく取り上げています。
一方、日本では平昌五輪にやってきた北朝鮮の美女軍団の尻を必死になって追いかけ回しています。簡単に北朝鮮のプロパガンダに載って、北朝鮮の宣伝に加担していることにさえ気づかない。物事の軽重が分からないのです。
メディアなどはそんなものだということなのでしょうが、一方で、日本人の意識は安倍総理をはじめとする政治のトップと、民間から変わりつつあります。彼らの頭越しに、日台の絆と関係の重要性は深まっていく。その間で官僚やメディアは右往左往することになるでしょう。
(月刊『Hanada』2018年4月号より)
著者略歴
評論家。1934年、台湾生まれ。早稲田大学に留学、博士課程修了。早稲田大学などで英語教育に携わる。台湾独立運動に参加。2000年から総統府国策顧問。09年9月、日本国籍を取得。著書に『凛とした子育て』(PHP文庫)、『家族という名のクスリ』(PHP)など。