安倍総理「台湾加油」で深まる日台の絆|金美齢

安倍総理「台湾加油」で深まる日台の絆|金美齢

「台湾加油」 安倍総理が地震に見舞われた台湾に向けて色紙に揮毫した文字です。 2月6日深夜(日本時間7日未明)、台湾東部で地震が発生し、花蓮市では12階建て集合住宅兼ホテルが倒壊、死者9名、日本人を含め負傷者200名を超える被害が出ました。


日台首脳が直にやり取り

安倍総理の直筆メッセージ「台湾加油」

「台湾加油」

安倍総理が地震に見舞われた台湾に向けて色紙に揮毫した文字です。

2月6日深夜(日本時間7日未明)、台湾東部で地震が発生し、花蓮市では12階建て集合住宅兼ホテルが倒壊、死者9名、日本人を含め負傷者200名を超える被害が出ました。

地震直後から、日本では「東日本大震災の時の恩返しを」との声が多く聞かれました。2011年3月11日のあの地震の際、250億を超える世界で最も多くの義援金を日本に贈ってくれたのは、人口にしてたった2300万人の台湾だったからです。

そのことを安倍総理も強く意識しているのでしょう。この色紙を自身が揮毫している姿を撮影した動画とともに、「安倍総理からのメッセージ」としてフェイスブックなどで次のような言葉を台湾に送ったのです。

〈台湾東部で発生した大きな地震により、亡くなられた方々への御冥福をお祈りするとともに、被害に遭われた皆様に、心からのお見舞いを申し上げます。
 東日本大震災では、古くからの友人である台湾の皆さんから、本当に心温まる支援を頂きました。決して忘れることはありません。そして、この、大切な友人の困難に際して、日本として、出来る限りの支援を行っていく考えです。
 現地では、夜を徹して、行方不明者の懸命な捜索・救助活動が行われています。日本政府として、すでに警察や消防などからなる専門家チームを派遣したところであり、全力を尽くして支援を行ってまいります〉

これに対し、蔡英文総統はツイッターで次のように返信しました。

〈安倍首相からのお見舞いは、まさかの時の友は真の友、まさにその通りです。このような困難な時の人道救助は正に台日双方の友情と価値観を体現するものだと思います。本日、日本から7名の専門家が人命探査装置を持って訪台して頂きました。これにより、更に多くの被災者の救出に繋がることを望みます〉

私はこのやり取りを見て、深い感慨を覚えました。もちろん、地震は不幸な出来事です。しかし、つらい時にこそ互いを助けられる日台は、まさに「真の友」になったのだと感じるからです。

余談ですが、「まさかの時の友は真の友(A friend in need is a friend indeed.)」という言葉は、第一次安倍政権で辞任した安倍総理に私がかけた言葉です。勢いがあるときに美味しい思いをしようと寄ってくる人は多いけれど、苦しい時、力を失っているときに手を差し伸べてくれる人は少ない。しかしそれこそが真の友。こういう時にこそ、互いの関係の真価が問われるのです。

日台は運命共同体

台湾でもこの安倍総理のメッセージについて多くのメディアが報じており、台湾の知人からも、「ニュースで大きく取り上げられている」との情報や、「安倍総理のメッセージは心強い」との感想が寄せられました。

また、この情報発信はまさに「機を見るに敏」であり、安倍総理の外交センスの良さと、スケールの大きさを実感しました。地震の被害に見舞われた花蓮という地名ではなく、「台湾」と書いたこと、これ自体に大きな意味があるのです。

公式には外交関係のない日台の間では、これまで公の場で「台湾」という名前を出すこと自体がタブー視されている風潮がありました。もちろん中国を慮ってのもので、これだけ言論の自由を謳歌できる日本社会において、なぜこうも台湾ばかりが粗末に扱われるのかという思いを、台湾人自身も持っていました。

その象徴が東日本大震災の時の「お礼広告」です。台湾から寄せられた多くの義援金を受け取りながら、民主党政権の日本政府は、菅直人首相の署名入りの「お礼広告」を米英仏韓露中6カ国の7つの新聞に掲載したのに対し、台湾の新聞には掲載しませんでした。台湾が寄せてくれた友情に対する礼儀すらなっていない、恥ずべき態度でした。

これに怒りを覚えた民間人が資金を募り、交流協会を通じて感謝広告を掲載しましたが、これは外交的に軽視されてしまう台湾人の悲哀を、民間交流で癒すことになった。いわば、「片思い」だった日本への思いが日本に通じ、相手からも返ってきた、戦後初めての出来事だったのです。

今回の安倍総理のメッセージも、この土台の上にあったのでしょう。

日台の絆は単なる民間交流だけでなく、安全保障にも影響を及ぼすものです。中国という巨大な敵が海洋進出するためには、沖縄から台湾、そしてフィリピンと連なる島々の間を通らなければならない。まさに、この地帯は中国の海洋進出を阻む防波堤です。台湾が中国の手に落ちればこの地域が中国の覇権に染まってしまう。そうなれば、日本の安全保障も大きく揺らぐことになります。

私が事あるごとに「日台は運命共同体」だというのはこのためです。安倍総理もそのことが分かっているからこそ、地震という日本にとっては最も痛みのわかる傷ましい出来事が発生した直後に、台湾に対してメッセージを送ったに違いありません。

さらに日本は地震発生後、即座に行方不明者の捜索・救助のための専門チームの派遣を決定しました。そして台湾は日本からの救援チームは「高度な機材を持っている」などとして受け入れる一方、中国からの支援の申し出を「人員や物資は足りている」と断ったのです。ここに新たな日台関係の在り方を見てとるのは私だけではないはずです。

台湾をのけ者にする人たち

ところがこれに水を差す動きもありました。2月8日に首相官邸ホームページに掲載した文書にあった〈蔡英文総統閣下〉の文字を、その日のうちに削除したというのです。これについて2月13日、元民進党で現在希望の党である源馬謙太郎議員が質問主意書を出し、「なぜ台湾総統宛だったのに、宛名を削除したのか」と政府に尋ねたのです。

同日、菅官房長官は記者会見で「蔡英文総統閣下」の宛先を削除したことを認め、その理由を「より広く台湾の皆さんへのメッセージとして掲載することが適当だと判断して変更した」と説明しました。

これが中国の圧力なのか、外務省・チャイナスクールの「忖度」なのか、あるいは自民党内の親中派によるものなのか、自粛なのか、そのすべてなのかは分かりません。しかし何と肝の小さいことか。地震という、日台双方が見舞われる不幸な体験を共有し、互いに助け合おうという時に邪魔をする。中国はほくそ笑んでいることでしょう。

しかしこのような自主規制で中国の意に沿うようなことばかりするのは役人や政治家だけではありません。

本誌2018年3月号で水野靖夫さんが「『広辞苑』は偏向、有害図書」という記事の中で指摘しているように、岩波書店が出版した『広辞苑』では、台湾を「台湾省」と記載しています。

これに対し、台北駐日経済文化代表処をはじめとする多くの団体が、新しく出る第7版では記述を改めるよう求めたのに対し、岩波書店は〈『広辞苑』のこれらの記述を誤りであるとは考えておりません〉として修正を受け入れませんでした。

言葉を定義する辞書を作る人間が、「台湾は『中華人民共和国台湾省』である」と事実と異なることを書いて憚らない。台湾人の存在を認めないかのような記述をして、それによって人権が侵害されている本人たちから抗議があっても一顧だにしない。これは言葉や言論を扱うプロとして恥ずべき態度ではないでしょうか。

「謝謝羅馬人!」

一方、2月8日、台湾で行われたエアコンの発表会に参加した俳優の阿部寛さんは立派でした。地震が発生した6日から台湾に滞在していた阿部寛さんは「つらく悲しい思いです」とのお見舞いと、現場で不明者の救出にあたるレスキュー隊員らに対して「大変だとは思いますが頑張って欲しい。1日も早く平穏な生活が戻ることをお祈り申し上げます」と労いの言葉を述べたと言います。

報道によれば、この時、現地のイベントスタッフからは「地震の話はちょっと……」とたしなめられたそうです。「新商品お披露目に地震被害など縁起が悪い」と思ったのか、華々しい雰囲気に水を差されると思ったのかはわかりませんが、これまたずいぶん肝の小さい話。

対して阿部さんは「いまこの話をしないで、何を話せばいいんだ」と言ったと言いますから、小さいことを気にしない、そのスケールの大きな姿勢に心から拍手を送りたい。

それだけではありません。阿部さんは、イベント終了後には、1000万円を台湾に寄付すると述べたのです。額の大きさもさることながら、寄付を公表したことが報じられ、日本での支援拡大の呼び水にしようという思いもあったのでしょう。

阿部さんの振る舞いに、台湾人は大喜び。阿部さんが「ローマ人」役で主演した映画「テルマエロマエ」は台湾でも大人気でしたが、これになぞらえてネット上には多くの台湾人が「謝謝羅馬人(ありがとう、ローマ人)」と書き込んだと言います。先に触れたように、台湾メディアも大きく取り上げました。

(※後日、台湾代表処を訪れた阿部寛さん)

メディアは置いて行かれる

では日本メディアはどうか。朝日新聞は今回の官邸ホームページの「蔡英文総統閣下」の宛名削除の件については報じながら、安倍総理の「台湾加油」のメッセージについては紙面で取り上げていません。産経はもちろん、読売、毎日も報じているにもかかわらずです。

岩波書店や朝日新聞をはじめとするメディアは普段、「弱者の立場に立って物を考えよう」「力で押さえつけるような政治は許さない」という態度を取っていながら、中国という巨大な圧力にひたむきに立ち向かっている台湾の立場を慮ることはありませんでした。

私が日本に来たのは1959年、60年安保の前年でしたが、当時大学生だった私は学生運動が始まった当初、「日本はなんて自由な国なんだ」と思ったものです。一方で、自由がありながらそれを活かさず、語るべき問題を避け、ひたすら軽佻浮薄な報道に明け暮れるメディアの問題点にも早くから気づいていました。

いま、台湾メディアは、中国の影響があるといえども、自国の地震に対して日本人がどのようなエールを送っているか、日々報じています。安倍総理のメッセージや阿部寛さんの対応から始まって、お笑い芸人やネット上の反応などを大きく取り上げています。

一方、日本では平昌五輪にやってきた北朝鮮の美女軍団の尻を必死になって追いかけ回しています。簡単に北朝鮮のプロパガンダに載って、北朝鮮の宣伝に加担していることにさえ気づかない。物事の軽重が分からないのです。

メディアなどはそんなものだということなのでしょうが、一方で、日本人の意識は安倍総理をはじめとする政治のトップと、民間から変わりつつあります。彼らの頭越しに、日台の絆と関係の重要性は深まっていく。その間で官僚やメディアは右往左往することになるでしょう。

(月刊『Hanada』2018年4月号より)

著者略歴

金美齢

https://hanada-plus.jp/articles/196

評論家。1934年、台湾生まれ。早稲田大学に留学、博士課程修了。早稲田大学などで英語教育に携わる。台湾独立運動に参加。2000年から総統府国策顧問。09年9月、日本国籍を取得。著書に『凛とした子育て』(PHP文庫)、『家族という名のクスリ』(PHP)など。

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末永恵

末永恵

米国留学(米政府奨学金取得)後、産経新聞社入社。産経新聞東京本社外信部、経済部記者として経済産業省、外務省、農水省記者クラブなどに所属。その後、大阪大学特任准教授を務め、国際交流基金(Japan Foundation,外務省所管独立行政法人)の専門家派遣でマラヤ大学(客員教授)で教鞭、研究にも従事。 政治経済分野以外でも、タイガー・ウッズ、バリー・ボンズ、ピーター・ユベロス米大リーグコミッショナー、ダビ・フェレール、錦織圭などスポーツ分野の取材も行う。


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