〈安倍首相からのお見舞いは、まさかの時の友は真の友、まさにその通りです。このような困難な時の人道救助は正に台日双方の友情と価値観を体現するものだと思います。本日、日本から7名の専門家が人命探査装置を持って訪台して頂きました。これにより、更に多くの被災者の救出に繋がることを望みます〉
私はこのやり取りを見て、深い感慨を覚えました。もちろん、地震は不幸な出来事です。しかし、つらい時にこそ互いを助けられる日台は、まさに「真の友」になったのだと感じるからです。
余談ですが、「まさかの時の友は真の友(A friend in need is a friend indeed.)」という言葉は、第一次安倍政権で辞任した安倍総理に私がかけた言葉です。勢いがあるときに美味しい思いをしようと寄ってくる人は多いけれど、苦しい時、力を失っているときに手を差し伸べてくれる人は少ない。しかしそれこそが真の友。こういう時にこそ、互いの関係の真価が問われるのです。
日台は運命共同体
台湾でもこの安倍総理のメッセージについて多くのメディアが報じており、台湾の知人からも、「ニュースで大きく取り上げられている」との情報や、「安倍総理のメッセージは心強い」との感想が寄せられました。
また、この情報発信はまさに「機を見るに敏」であり、安倍総理の外交センスの良さと、スケールの大きさを実感しました。地震の被害に見舞われた花蓮という地名ではなく、「台湾」と書いたこと、これ自体に大きな意味があるのです。
公式には外交関係のない日台の間では、これまで公の場で「台湾」という名前を出すこと自体がタブー視されている風潮がありました。もちろん中国を慮ってのもので、これだけ言論の自由を謳歌できる日本社会において、なぜこうも台湾ばかりが粗末に扱われるのかという思いを、台湾人自身も持っていました。
その象徴が東日本大震災の時の「お礼広告」です。台湾から寄せられた多くの義援金を受け取りながら、民主党政権の日本政府は、菅直人首相の署名入りの「お礼広告」を米英仏韓露中6カ国の7つの新聞に掲載したのに対し、台湾の新聞には掲載しませんでした。台湾が寄せてくれた友情に対する礼儀すらなっていない、恥ずべき態度でした。
これに怒りを覚えた民間人が資金を募り、交流協会を通じて感謝広告を掲載しましたが、これは外交的に軽視されてしまう台湾人の悲哀を、民間交流で癒すことになった。いわば、「片思い」だった日本への思いが日本に通じ、相手からも返ってきた、戦後初めての出来事だったのです。
今回の安倍総理のメッセージも、この土台の上にあったのでしょう。
日台の絆は単なる民間交流だけでなく、安全保障にも影響を及ぼすものです。中国という巨大な敵が海洋進出するためには、沖縄から台湾、そしてフィリピンと連なる島々の間を通らなければならない。まさに、この地帯は中国の海洋進出を阻む防波堤です。台湾が中国の手に落ちればこの地域が中国の覇権に染まってしまう。そうなれば、日本の安全保障も大きく揺らぐことになります。
私が事あるごとに「日台は運命共同体」だというのはこのためです。安倍総理もそのことが分かっているからこそ、地震という日本にとっては最も痛みのわかる傷ましい出来事が発生した直後に、台湾に対してメッセージを送ったに違いありません。
さらに日本は地震発生後、即座に行方不明者の捜索・救助のための専門チームの派遣を決定しました。そして台湾は日本からの救援チームは「高度な機材を持っている」などとして受け入れる一方、中国からの支援の申し出を「人員や物資は足りている」と断ったのです。ここに新たな日台関係の在り方を見てとるのは私だけではないはずです。