福井県高浜町の森山栄治元助役(故人)
共産党関係者の思惑
福井県高浜町の森山栄治元助役(2019年3月死去)から、関西電力幹部に多額の金品が渡っていた問題は、テレビや新聞で連日報じられていますが、その中身や構造がいまいちよくわからない、という方は多いのではないでしょうか。
この問題は、いくつかの伏線と構造を理解していなければ、本質が全く見えてきません。逆にいえば、テレビや新聞はそうした本質をきちんと報じていないのです。
問題が発覚したあと、現地に様々なメディアが入り、私も取材に行きました。その際に、共産党系の町議が「この件は同和問題を抜きにしては語れない、真相が見えてこないよ」と発言したのです。そのとおりで、部落解放同盟がかかわっている話でもあり、だからこそ多くのテレビ、新聞が詳細を報じることができないのです。
しかし、ここで注意しておかなければならないのは、旧社会党系の部落解放同盟と共産党系の全解連(全国部落解放運動連合会)はこれまで骨肉の争いをしてきて、その争いの最前線こそが関西だったということです。全解連は2004年に発展的解消をしましたが、別の人権団体へと形を変えて存続、いまだに解放同盟と共産党は、犬猿の仲です。
森山氏については、1982年8月の共産党機関誌『前衛』で、一度記事になっています。森山氏が地元で解放同盟を組織して、それをバックに関電と癒着し、町政をほしいままにして私利私欲を貪っていた──という内容ですが、チェックしていくと、全部が全部正しいわけではない。「だれかれ容赦なく”糾弾”していた」などと書かれていますが、かなり脚色されている節があります。
どうも共産党系関係者は、「部落解放同盟がやらかした問題なのだ」と誘導しようとしている、と見る必要がある。
では逆に、部落解放同盟は全く関係がないのか。
10月7日、解放同盟の組坂繁之執行委員長が「福井県高浜町元助役から関西電力幹部への金品受領問題に関する部落解放同盟中央本部のコメント」と題した文書を発表しており、そのなかにこういう一文があります。
《部落解放同盟福井県連合会は、高浜支部の一支部だけで構成されており、その所帯数も80世帯ほどの被差別部落であり、同盟員数に至っても200名ほどの小さい県連の1つである。福井県に対する交渉においても中央本部役員が同行し、県との協議を進めているのが現状であり、福井県や高浜町、ましてや関西電力に大きな影響を及ぼすほどの組織ではない》
つまり、森山元助役が報道で言われているような大きな力を持っていたわけではない、ひいては金品授受は解放同盟の関与するところではない、と言いたいのでしょう。
解放同盟の難しい判断
では、森山元助役は解放同盟で活動していなかったのか? これについては、高浜町の郷土誌『郷土誌青郷』(郷土誌青郷編纂推進協議会)に、このような記述があります。
《高浜支部の結成は福井の各地の被差別部落に大きな影響を与え、その後の福井における解放運動の拠点を築いた。結成当時の役員は次のとおりである。支部長山本惣太、副支部長田中稔、山下孝次、山本操冶、書記長森山栄治が三役の任にあたり(略)》
森山元助役は、間違いなく解放同盟高浜支部に結成当時からかかわっており、書記長という要職を務めていた。しかし、この職は2年ほどで解職されます。その辺の事情は判然としていませんが、いずれにしろ解放同盟に在籍していたことは間違いなく、その後、同盟員をやめたかどうかはわからないままで、もしかしたら最後まで解放同盟のメンバーであった可能性もあります。
解放同盟は決して一枚岩ではありません。いろいろなグループがあるし、言うところのえせ同和行為に走る連中もいる。正直言って玉石混淆の組織なのです。なかに跳ね返りや乱暴者もいて、そういう連中が過激な行動をしていたのも事実。もし森山氏を「とんでもない」と批判すると、自分たちに跳ね返ってくるからしにくい。
しかし、前述したように共産党が攻撃を仕掛けているのだから、きっちりメッセージは出しておかないといけない。解放同盟としても、なかなか難しい立場にあると言えます。
ここまでが、問題の本質を把握するための大前提ともいえる事実関係の一つです。