原子力規制委の抜本的改革が必須|奈良林直

原子力規制委の抜本的改革が必須|奈良林直

柏崎刈羽原発で東電の社長を厳しく追及し、社員のやる気をなくさせているのが現在の原子力規制委の山中伸介委員長。電力事業者の取り組みがうまくいかないのは、規制委の采配が下手だからだ。我が国でも米国のように、規制委の抜本的改革が必要である。


原子力規制委員会は17日、東京電力柏崎刈羽原子力発電所(新潟県)の事実上の運転禁止命令を解除しないことを決めた。テロ対策不備に関して 改善を要求した6項目のうち2項目の改善が不十分との理由だった。

規制委による現在の規制は、かつて米国のSALP(サルプ)という規制手法が許認可権限を振りかざして、全米の原発の大小トラブルに制裁を科した結果、原発の運転成績を極端に悪くしたことと酷似している。

米国の規制手法転換に学べ

米国の原子力規制委員会(NRC)は組織改革により1975年に発足し、1979年にスリーマイル島(TMI)原発2号機の過酷な事故を経験した。当時のカーター大統領はNRCのハロルド・デントン委員長に全権を委任し、迅速な事故対応を可能とした。炉心溶融は発生したものの、格納容器内の蒸気を放出(ベント)し、事故を収束させた。格納容器から蒸気を抜くという報道に地元ではパニックが発生したが、地元の汚染は防止できた。東日本大震災当時の菅直人首相が東電幹部を通じて福島第一原発事故の対応に口を差し挟み、大きな混乱を招いたのと対照的であった。

TMI事故の後、NRCはSALP(Systematic Assessment of Licensee Performance)と呼ばれる厳しい規制手法を導入した。言わば「事業者能力査定制度」であり、項目別に細かいことまで採点して、評価の低い原発に厳しい制裁を科した。そのため、全米の原発の所員や管理者が意気消沈し、大小のトラブルが多発し、全米の発電所の運転成績と設備利用率が大きく低下した。

NRCは議会や産業界から非難を浴び、存亡の危機に陥った。その時、NRCはどうやって規制手法を改善すべきか、真剣に議論した。そして生み出されたのが現在の原子炉監督制度(ROP=Reactor Oversight Process)である。

その秘訣は、「北風」から「太陽」への政策転換であった。成績の良い発電所の検査は必須項目だけにし、成績の悪い発電所は検査を増やして対等な立場で指導した。運転成績に影響する不具合の中でリスクの大きいものを抽出し、わかりやすく色分けして公開した。その「通信簿」が良ければその発電所の株価も上がる。経営陣も通信簿が良くなるように、業績を上げた所員を表彰した。「安全第一」「ゼロ災」の標語を掲げ、所員のやる気を上げる日本の手法を取り入れて成果を上げ、全米の原発の設備利用率は90%台に上昇した。

現場のやる気を奪うな

柏崎刈羽原発で東電の社長を厳しく追及し、社員のやる気をなくさせているのが現在の原子力規制委の山中伸介委員長なのだ。福井県にある日本原子力発電の敦賀原発2号機は書類のミスだらけで規制委の審査が4月に中断されたが、悪い規制を行えば電力会社のミスを誘発する。

そもそも安全対策やテロ対策は、一義的には電力事業者の責任だが、規制委にも監督責任がある。スポーツの試合では、監督が経験不足で采配をふらつかせれば、選手の力を引き出せない。電力事業者の取り組みがうまくいかないのは、規制委の采配が下手だからだ。我が国でも米国のように、規制委の抜本的改革が必要である。(2023.05.22国家基本問題研究所「今週の直言」より転載)

関連する投稿


災害から命を守るために憲法改正が必要だ|和田政宗

災害から命を守るために憲法改正が必要だ|和田政宗

私は、東日本大震災の津波で救えなかった命への後悔から、その後、大学院で津波避難についての修士論文をまとめた。国会議員に立候補したのも震災復興を成し遂げるという意志からであった。だが、災害などの緊急時に対応できる憲法に現行憲法はなっていない――。


自衛隊の災害派遣経費は自腹でいいのか?|小笠原理恵

自衛隊の災害派遣経費は自腹でいいのか?|小笠原理恵

「休暇中に帰省するのは許可するけど、何かあったときは自腹で帰ってきてねというスタンスです」と自衛隊幹部。被災地で活躍する自衛隊に多くの国民が感謝しているが、自衛隊では災害派遣活動中でも自腹負担が多数みられる――。(サムネイルは「陸上自衛隊 中部方面隊」Xより)


役に立たない日本学術会議は要らない|奈良林直

役に立たない日本学術会議は要らない|奈良林直

新会長に選ばれた光石衛(まもる)・東京大学名誉教授(機械工学)は、菅義偉前首相が任命を拒否した6人について「改めて任命を求めていく」と語っており、左翼イデオロギーによる学術会議支配が今も続いていることが分かる。


【陸自ヘリ墜落】自衛隊の装備品だけでなく予備品の大幅増額を|奈良林直

【陸自ヘリ墜落】自衛隊の装備品だけでなく予備品の大幅増額を|奈良林直

今年4月、沖縄県の宮古島周辺で発生した陸上自衛隊のヘリコプターUH60JAの墜落事故。原因究明が急がれるが、筆者は、「あること」に気がついた。もし、れに気が付かず、改善されなければ、また新たな事故が……。


「汚染魚食べろ」「人が住めない土地」「Fukushima Water」日本共産党の風評加害は組織的に行われていた|松崎いたる

「汚染魚食べろ」「人が住めない土地」「Fukushima Water」日本共産党の風評加害は組織的に行われていた|松崎いたる

日本共産党の度重なる風評加害の源泉は志位委員長による公式発言にあった!共産党が組織的に福島を貶め続ける理由は何か?『日本共産党 暗黒の百年史』の著者、松崎いたる氏による「ここが変だよ共産党」第8弾!


最新の投稿


【川勝劇場終幕】川勝平太とは何者だったのか|小林一哉

【川勝劇場終幕】川勝平太とは何者だったのか|小林一哉

川勝知事が辞任し、突如、終幕を迎えた川勝劇場。 知事の功績ゼロの川勝氏が、静岡に残した「負の遺産」――。


【今週のサンモニ】「サンモニ」の”恐喝”方法|藤原かずえ

【今週のサンモニ】「サンモニ」の”恐喝”方法|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。


「子供1人生んだら1000万円」は、とても安い投資だ!|和田政宗

「子供1人生んだら1000万円」は、とても安い投資だ!|和田政宗

チマチマした少子化対策では、我が国の人口は将来半減する。1子あたり1000万円給付といった思い切った多子化政策を実現し、最低でも8000万人台の人口規模を維持せよ!(サムネイルは首相官邸HPより)


【読書亡羊】出会い系アプリの利用データが中国の諜報活動を有利にする理由とは  『トラフィッキング・データ――デジタル主権をめぐる米中の攻防』(日本経済新聞出版)

【読書亡羊】出会い系アプリの利用データが中国の諜報活動を有利にする理由とは 『トラフィッキング・データ――デジタル主権をめぐる米中の攻防』(日本経済新聞出版)

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


【今週のサンモニ】岸田総理訪米を巡るアクロバティックな論点逃避|藤原かずえ

【今週のサンモニ】岸田総理訪米を巡るアクロバティックな論点逃避|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。