外交裏話に事欠かない、実に面白い一冊だが、最後に、少し長いが見逃せない一文を引いておきたい。
アーリントン国立墓地には、ジョン・F・ケネディをはじめ多くの要人が埋葬されている。その中で「無名戦士の墓」が献花の場として選ばれるのは、名のある英雄や特定の個人ではなく、国家のために命を捧げた兵士全体を象徴しているからである。
身元が特定されないからこそ、遺体が戻らなかった家族は、そこに自分の家族を重ねることができる。同時に、国家が犠牲を忘れないという約束を可視化する場所でもある。
外国首脳による献花には、訪問先の国家の礎となった人々への敬意を示したうえで対話に入る、という意味合いもある。日本の感覚で言えば、訪問先でまず仏壇に手を合わせる所作に近い。
第二次世界大戦を経て同盟を築いた日米関係において、この喧嘩は和解の象徴として受け止められることもある。過去を踏まえたうえで現在の関係に向き合う姿勢を、儀礼の形で示す行為でもある。
これを読んでどうしても考えざるを得ないのは、「では来日時、アメリカ側は『和解の象徴』としてどこに献花するのか」である。
靖国神社……と言いたいところだが、アメリカの要人が靖国に参拝したことはない。また、靖国に祀られている英霊は基本的に身元が分かっている人々の御霊であり、その意味でアーリントン墓地と対称を成すのは身元の分からない戦没者のご遺骨が祀られている千鳥ヶ淵戦没者墓苑ということになるのかもしれない。
しかし千鳥ヶ淵になら各国の要人が来日時に訪れて献花しているか、と言えばそういうわけでもない。アメリカの閣僚が千鳥ヶ淵で献花を行ったのはケリー国務長官、ヘーゲル国防長官が来日した2013年が初めてだという。
全てのしつらえ、全ての振る舞いに外交的な意味がある。来日する各国の要人たちが、日本でも〈国家の礎〉となった人々への敬意を示す機会があってほしいと思わずにはいられない。
ライター・編集者。1980年埼玉県生まれ。月刊『WiLL』、月刊『Hanada』編集部を経てフリー。雑誌、ウェブでインタビュー記事などの取材・執筆のほか、書籍の編集・構成などを手掛ける。

