習近平中国国家主席がロシアによるウクライナ侵略戦争の和平案を引っ提げて、今週訪露する。中国は3月に入って、湾岸地域で敵対関係にあったサウジアラビアとイランを仲介し、外交関係の再開合意を引き出すことに成功したばかりだ。その勢いを駆って、今度は欧州の戦争で「善意の調停者」を演じようとしている。
中国の秦剛外相は自国を平和志向のピースメーカーと位置付け、逆に米国を「対話を促す努力を繰り返し破壊した」として戦争挑発者であるかのように描く。国際社会に定着しつつあった中露枢軸の邪悪なイメージを覆し、米国との戦略的競争を有利に展開しようとしている。
平和志向を印象付け
つい最近まで中国がウクライナ和平に関心を示したことはなく、むしろ、この戦争で安価なロシア産エネルギーを得られたことに利益を見いだしていたはずだ。ところがウクライナの前線でロシアの劣勢が伝えられると、突如として仲介に乗り出した。中国にとってロシアは、米国という共通の敵と戦う数少ない枢軸国だからだ。
中国外務省が発表した12項目和平案は、「すべての主権の尊重」「冷戦思考の放棄」「一方的な制裁の停止」など抽象的な政治用語が並べられている。その中核を成すのは、「冷戦思考の放棄」を求めることで、米国主導の北大西洋条約機構(NATO)によるウクライナ支援を後退させることにある。しかし、和平案は侵略した国と侵略された国を区別していない。バイデン米大統領が「合理性なし」と拒否したのは、ロシア侵略軍の撤退が和平案に含まれていない以上、当然のことだ。
中国はバイデン政権の反応を逆手に取って、米国を戦争の継続を望む勢力と決めつけ、平和を希求する自らとの対比を強調した。12項目提案のうち、「制裁の停止」「敵対行為の停止」「和平交渉の再開」は、食糧とエネルギーの価格急騰に苦しむグローバルサウス(南半球の途上国)に中国の和平努力を印象付けた。同様に苦闘する欧州各国に対しては、和平案を誘い水にウクライナを支援する米欧の結束を乱そうとする。
ピースメーカーの欺瞞
12項目提案には、もう一つの隠れた狙いが仕掛けられているように思えてならない。中国の台湾侵攻計画に絡んで、12の原則が対米戦争を有利に運ぶための条件設定に通じているからだ。これらの原則を台湾有事に適用し、米国とその同盟国の介入を排除することが最大の狙いではないか。ロシアへの「一方的な制裁の停止」原則は、まさに中国が台湾攻撃をした際の米欧日からの制裁の脅威を取り除き、サプライチェーン(供給網)を安定的に保つことにつながる。
習近平主席の訪露によって開催される中露首脳会談では、この和平案を軸としてロシアに有利な条件を詰めるのだろう。習氏はロシア訪問後にウクライナのゼレンスキー大統領と電話会談を探っているようで、欺瞞外交を通じてピースメーカーとして振る舞い、米国との戦略的競争を乗り切ろうとしている。(2023.03.20国家基本問題研究所「今週の直言」より転載)